遍路ふたたび(10)  
  
 遍路ふたたび(1)東寺出発準備 (2)別格1.2番、1番ー11番
(3)12番-19番、別格3番 (4)20番ー23番、別格4番 (5)24番ー33番、別格5番  
(6)34番ー43番、別格6.7.8番 (7)44番ー53番、別格9番 
(8)54番ー66番、別格10ー15番 (9)67番-83番、別格16-19番 
(10)84番-88番1番、1番、 (11)高野山 (12)別格20番、別格1番 (13)東寺



  

 1月6日(金)

       夜、6時大阪発。
       一路、四国を目指して出発です。3時間で行けるかな。道も空いていて順調です。
       しかし、高松道に入って香川県に入ってくると気温も0℃に下がり、不安に。トンネル
       を抜けるとチラホラ雪。志度ICを降りると急にすごい雪です。前が見えません。
       屋島ロイヤルホテルまであと9km。車はのろのろ。時速10kmくらいです。完全に渋滞。
       いつスリップするか。あいにくチェーンは持っていません。ホテルについてテレビを見ると
       私が通過して30分で、高速は通行止めになったそうです。
       どうやら、波乱の幕開けか?お四国は、そう容易くないということですね。


1月7日(土)

       朝、6時半。真っ暗な屋島のホテルから歩いて、84番屋島寺へ。3km。独特のお山です。
       雪を避けて歩き出すと、すぐに山への参道です。うっすらとした雪。凍結ですね。もう、何人か
       地元の方がお参りです。

         

        途中で、公園に野宿していた青年遍路と会いました。さっそくパンと
       暖かいコーヒーのお接待。千葉の青年です。35日だというから驚きです。お元気そうで安心。
       お加持水食わずの梨を通過。ずっとのぼり道です。

         

       しばらく上っていますと、後ろから犬に足をつんつん。地元の飼い犬かと思っていましたら、
       参拝の方に聞くと、屋島のお寺に捨てられていた犬だとか。どなたかに世話を受けていて、
       最近首輪をしています。参拝の人について、お山を登ったり降りたりしているそうです。
       上の山門まで案内してもらいました。「やし」君です。こらこら、境内で猫を追っかけないの!

         

       お参りをして、納経していただき聞きますと、今日はドライブウェイが通行止めで、いつもの
       納経所のかたは自宅待機だとか。ひっそり数人の地元の方だけの屋島寺です。

          

       さあ、朝日の中85番八栗寺へ。5.4km。きつい下りの坂道を降ります。眼下には、屋島の海を
       望み、湾の向こうには八栗のお山が待っています。途中で会った地元のかたも、「道が凍ってる
       から、気を付けて」と言葉をいただきました。

          那須の与一のマンホール

       1時間半ほどでロープウェイ乗り場につきました。もうずいぶん多くのお参りの方がおられます。
       町のリトルリーグの少年たち。みんな歩いて上ります。元気。雪合戦ですよ。若い!
       でも、ここからの上りはかなりのものです。ましてや、雪が凍って足元が危ない。つらかったな。

       なんとか、山門に着きました。今度は、鐘を撞きました。歓喜天さま。猫が2匹、歓喜天さまの巾着を
       持っている置物がありましたよ。大師堂からロープウェイ乗り場の方へ行って、降りる遍路道です。

         

       どなたも、歩きの方を見ませんでした。86番志度寺へ。6.5km。道は、快適。冬の遍路道。
       里に下りて、とことこ志度寺を目指します。遍路道は村の中。でもどなたともお会いしませんね。
       神社の公園で休んで、ふと見ますと、もう海のそばです。思わず、浜辺に下りました。志度の海。 

         

       琴電が海岸ぎりぎりのところを通るんです。道がなくて、ちょっと線路を通りました。古い街道を行くと
       志度寺の奥の院地蔵寺。まっすぐ行くと、志度寺の山門です。五重塔がまぶしい。
       もうすぐ満願だと思うと、感慨はひとしおです。

          

       朝のお接待で手持ちのパンも無く、どこかでお昼です。そう、セルフのうどんやさん。
       おいしかったですよ。ここから琴電で、車まで戻ります。琴電「しど」から「かたもと」まで。
       340円。電車を待っていて、気づきました、ネックウォーマーがない。志度寺で落としたの
       でしょうか。それとも海岸。重宝していたのに。
       きっとお大師さんが、気を抜くなって教えてくださったんだ。「かたもと」で降りて、屋島のユニクロに。
       ネックウォーマーを購入してから、志度寺に車でもどりましたが、やっぱりありませんでした。

       気持ちも沈んで、車で87番長尾寺へ向かいます。あさ会った青年は、今日は前山遍路交流
       サロンまで、行くといっていました。もう長尾寺を過ぎているでしょうね。

          

       長尾寺までは、7kmほど。車だと10分。なんと歩きの凄まじいことでしょう。駐車場に入ろうとすると、
       前にはっぴを着た方々が。今日は、あのでっかいお餅を運ぶ力比べのお祭りです。テレビ局まで。
       1等のおじさんは、なんと50mも歩いたそうです。賞金5万円とか。すごい!喧騒をよそにおまいり。
       本堂の屋根の上では、餅撒きでしょうか、準備中でしたよ。

       ウェルサンピアさぬきに泊まります。連泊の予定。ここは、2回目。去年も。温泉やスケートリンクが
       あって、地元の人で込み合っています。さあ、明日は満願の日です。ゆっくり眠りましょう。


1月8日(日)

       ホテルから歩いて。朝、ご飯をいただきました。覚悟を決めて、ちょっとゆっくりの8時出発です。
       88番大窪寺へ。12.3km+2km。距離はそんなでもないのですが、なにしろ女体山越えルートを
       目指します。

       前山までは、ゆったり。遍路道は、県道3号線に沿っています。どなたもいない村の道です。
       釈迦堂。高地蔵さまを過ぎて、コンビ二Yショップを目指したのに、日曜はお休みです。
       もう道の駅「ながお」だけ。

           

       前山ダムで山コースと分かれますが、遍路センターと道の駅のために、小学校の方へ。

       昨日の屋島の青年はここで泊まったのでしょうか。早速、遍路交流センターにおじゃましました。
       昨日のノートに、千葉県のM君の名前。館長さんが、昨日はここに泊まっていきましたよと。
       元気だったんだ。去年は、館長さんにお会いできなかったのですが、今日はおられました。
       ノートに住所と名前を書きました。ねぎらいと励ましの言葉をいただき、お茶を頂戴しました。

          

       「遍路大使」の証明書とバッジ。842号です。

           

       去りがたく、館内の展示も見せていただきました。うれしいです。もっとゆっくりしたかったの
       ですが、なにしろ女体山が待っています。もう10時です。ここから大窪寺までは、6kmほど
       なのですが、雪が心配です。

       すこし行くと、いよいよ道が女体山への道です。車道と交錯するように遍路道が続きます。
       まだ、雪は少しで凍っていてバリバリ踏んでいきます。途中の遍路道が、だんだん雪深く。

       道しるべは、「大窪寺、太郎兵衛館」となっています。何人かの足跡があります。雪の足跡を
       見ると、今日は行きが二人、逆が一人です。不安の中、進むしかありません。

       途中でせせらぎの横の道路で休憩しました。パンをいただきましょう。
       前の木立でキッキッーと声がします。鳥かなにかだと思っていました。
       すると、すぐ前の木の上に、なんと猿です。野生の猿が3.4匹。家族でしょうか。
       でも、襲われると怖いので食べ物はすぐにリュックへ。

          

       いままで、遍路として歩いてきて、三角寺で雉のつがい、高越山では狸。遍路案内犬たち。
       そうして今、猿です。どうも桃太郎になったみたいですね。みんな、見守ってくれています。
       勇気をもらいました。さあ、行きますか!
       いいんです。禅定ですから。太郎兵衛さんが、猿のお使いまで送ってくださった。

       太郎兵衛さんの館との分かれ道まで、きました。ここから暫くは、女体山ドライブウェイです。
       もちろん、車は通行なんかできません。雪ですから。それにもうへろへろなんです。
       いっきに210mのぼってきましたから。

       最初のドライブウェイからの遍路道入り口。勾配と状況から、車道を歩くことにしました。
       ひとつは、足跡が、みんな遍路道に向かっていて、ここから上の車道には足跡が無いこと。
       だれも通っていない道なんです。

          

       足跡をつけて歩きたかったのです。道には、ウサギと狸か狐の足跡だけ。
       うれしくて、ザクザク進みます。空は晴れています。進みましょう。だんだん深くなってきます。
       杖が雪にめりこみます。どんどん高くなってきます。
       遠く屋島、志度のお山から瀬戸内なで見晴らせます。もう標高は740mです。
       峠に到着。鳥居の前で休憩です。
       
         


       すでに1時をまわっています。3時間もかかりました。ここから、山を降りて奥の院から大窪寺です。でも、
       幅の狭い階段です。雪で滑らないように慎重に降ります。結構時間がかかりました。

          

       下の方から人声が聞こえます。到着です。あの大窪寺。88番打ち止めのお寺です。
       涙よりも鼻水が止まりません。うれしさも最高潮です。奥の院の階段を胸を張って降りました。
       境内は、たくさんのお参りでごった返しています。

       ゆっくり身支度を整えます。ちょっとくらくら。ご本堂で勤行ですが、ひざががくがく。
       きつかったです。納経所はご本堂の横ですが、大師堂に向かいます。しなければならない
       ことがあります。実は、以前にテレビで見たのですが、この大師堂の前の石畳でささくれだった
       遍路杖をこすって、ささくれをとるんです。ゴシゴシ。はたして、私の杖は何cm短くなったでしょう。
       もう2度ここに来ました。杖は納めません。だって、3回目もまた一緒に来ますから。
       ずっと私を支えてくれた杖です。もう杖無しで歩くのは、とても不安になっています。同行二人。

       大師堂におまいりして、もう一度ご本堂に。「結願所」の写真が撮りたくて。でも中で撮影は
       だめでしょう。前の階段を下りてパチッ!なんと宿で見直すと、お大師様がおられるんです。
       少なくとも私にはそう見えます。
       あのお大師様が椅子に座っておられるお姿。どなたかは、高僧が手を合わせておられる姿に
       見えるとか。ずっとお会いしたくて、とうとう88番にお大師様はおられたのですね。
       でも、肉眼では見えませんでした。

        ご本堂です。右下にお大師様でしょうか。
       
       権先達の方に以前聞きました。1回目は、自分のため。2回目は先祖のため。
       3回目は、お大師様にお会いするため。2回回った人は、必ず3回目を回られますよって。
       いつか、お大師様に会えるでしょうか。 
       とうとう2回目の結願をしました。母の白衣のご朱印もあと高野山を残すのみです。

           

       3時51分発の志度行きのコミュニティーバス(1日3便)100円に乗りましょう。
       時間はたっぷり。山門を下りていくと、横の店のおじさんが、寒かったろうと生姜湯のお接待。
       おなかの中までしみわたりましたよ。 「歩いたの?」「女体山を越えました。」
       「あそこは遍路道じゃなく、行者道だよ。」と呆れ顔。

       ちょっと褒めて欲しかった自分が、小さく見えました。喜びというのは、自分だけの満足なんですね。
       自慢したり、いたわってほしいという甘えに気づいて、ほんとうにつらい瞬間でした。
       最後の最後にまた、教えられました。すごいことを成し遂げたような気になっていました。

       本当は、1/3くらいしか歩いてないのです。今の自分では、精一杯でも、絶対的価値では
       ないのです。価値という概念すら無意味です。遍路は、その無意味・無価値を学ぶ道です。
       生きているのではなく、生かされているのです。達成感というもの、そのものも越えなければ
       いけません。まだまだです。

       「打ち込みうどん」をいただき、しょうが煎餅をお土産に。今回の記念に、干支の十二神将の
       お守りを杖に。杖には、阿吽の「ウン」字のお守り。前回の大窪寺のお守り。
       そして、今回の「卯」マゴラ神のお守りです。

          

       大川バス本社まで、バスです。30分ですよ。あの決死の半日が、わずかに30分です。
       時間ってなんでしょう。そこにある自分ってなんでしょう。そんなものですね。
       孫悟空がお釈迦さまの手のひらで、キントン雲に乗って宇宙の果てまで飛んだのに、
       やっとお釈迦様の指が見えた瞬間ですね。小さい、小さい。今夜も早く寝ましょう。 


1月9日(月)

       今朝は、ホテルから車で、別格20番大滝寺に向かう予定です。しかし、道が心配で大滝寺に電話を
       かけました。やっぱり予想通り、昨日途中に車をおりて歩いて行った人がいたそうですが、凍結と雪で車は
       無理そうです。一番緩やかなコースの夏子ダムからの道を最後の頼みに、国道193号線を向かいます。

       気温は、どんどん下がって-3℃。休憩所「夏子」で、店の人に聞きました。山は雪でしょう。無理なさらないで。
       まだ、未練があってすこし行ってみることに。でも1kmも行かないうちに、道は真っ白で、凍ってバリバリ。
       Uターンです。別格は、こんどにしましょう。

       1番霊山寺に向かうため、脇坂ICに。藍住でおりて、行き慣れた霊山寺です。
       2度めの満願、お礼参り。また、腕念珠をいただきました。後は、高野山に参るのみです。

         

       3回目は、どんなことをしても歩きたいな。高速バス利用と、確実に歩いたところから継いで行きたい。
       何回、何年かかってもいい。リュックも30リットルがいるな。

       いやいや、雪が解けたら、別格20番大滝寺だけを先にお参りしないと。そうして、別格のお礼参り。
       別格は、東寺(教王護国寺)で最後の満願ご朱印をいただきに行きましょう。

       遍路の旅に終わりなし 夢は 枯野の道 遠し