遍路6回目の(5) 

平成24年4月15日から19日、6回目を始めます1番ー17番
平成24年8月5日から8日、6回目(2)18番ー23番
平成24年10月21日から24日、6回目(3)24番ー28番
平成25年1月29日から2月1日、6回目(4)29番から36番
平成25年3月17日から21日、6回目(5)37番から40番

 雨に煙る河原の遍路道 (40番観自在寺手前)


3月17日(日)初日
 
 久しぶりのお四国で、わくわく。この時が一番たのしいですね。
遠足前の子供と同じです。忘れ物がないか?切符は持ったか?・・・

 朝7:00の電車で、JR湊町OCATのバス乗り場に向かいます。
いつも日曜日を出発にするのは、でかいリュックをもって電車に乗るのに、皆さんの
迷惑を考えると、平日ラッシュには無理です。

 

 8:05発 13:03高知着 高知EX3号。3列シートで、快適ですよ。
高知駅で、13:50特急 あしずり5号 14:53 窪川着です。
列車が来た時には、空いていたんですが、団体が接続特急から乗り換えてきて
なんと通路にまで、ひとがあふれます。席を譲るには、ちょっときつくて、寝たふり?!

 窪川駅で下車。なんと団体さんも窪川下車で、観光バス。四万十の旅ですかね?
駅からは、37番岩本寺までわずかに10分もかからないかな。うれしかったのは、
道の両側、民家のドアまで、子どもたちの手書きのお雛様絵馬です。
ずっと、お寺の階段まで展示しています。いいなあ。

   橋の欄干にも

 お参りして、大師堂右横の清涼殿が開いている。どなたも行かないのですが、
ちょっと覗きに。なんとお雛様が飾ってあります。立派なのが左右にも。
うれしいですね。岩本寺は、5つの御本尊が有名ですが、わたしは、6番目に
したいですね。思わず、合掌しました。

  

 納経のご朱印をいただき、前のベンチで休憩。ふと思い出して、以前にもすでに
亡くなっていたわんこ「ひろくん」。前回は、主なく小屋だけあったのですが。
探してみたら、、山門の横奥に、さみしげに犬小屋だけが、ありました。また、合掌。
どうも、へんな遍路さんですね。もう夕刻です。多くの方が、宿坊に入られます。

  

 そうそう、もう聞かなかったのですが、私の前のご朱印のかたの納経帖には、
地蔵菩薩と書いておられました。行くたびに違うご本尊が書かれるのですね。

 次の列車は窪川発16:51南風11号です。それまで、便がありません。
のんびりしていたのですが、ゆっくり窪川駅にもどります。
??なにやら、道の向こうで、おばあさんが両手ですくい上げるようなしぐさ。
近づいてみると、私の方を向いて、「ご利益、御利益。」って。本当に申し訳ない。
私から、いったいどんなご利益があるのでしょう。思わず合掌しながら、「すみません。」
といいながら、速足で。(なさけないです。)

 駅でも、たっぷり時間があります。前に乗ったとき、窪川から中村・宿毛は、
JR予土線ではなくて、土佐くろしお鉄道なので、乗り場も切符も左の別の駅舎で
買うのですが、日曜は向こうが閉まっているから、そのまま改札を通って、ホームに
行って、切符は電車の中で買いなさいって、駅員さん。なんと、車掌さんに切符を
購入しようとしたら、どうせ終点だから、お金はもらうけど、中村に着いたら、
そのまま出てくださいって。お金払っただけで、切符なしです。なんと、不安だった
ことか。こんなのも、旅の醍醐味ですかね。

  

 17:26 中村に着きました。宿は、駅前すぐにしました。バス利用を考えると
これが最適。でも、駅前が静かです。以前、幻のウナギ屋さん(いつも時間があわず)
一度だけ、食べたのですが、なんと無くなっていました。ちょっとさみしいです。

  あのお店が、もうないです。

 ちょっぴり、さみしい初日です。明日は、雨とか。どうしましょうかね。
 早起きして、竹島の大師堂に行かなくては。早く寝ます。

   明日の朝食


3月18日(月)二日目

 昨日からの予報で、今日は嵐になりそうです。朝7時頃から降ってきそうです。
朝4時に起きて、5時には中村駅前の宿から四万十大橋を目指します。

 昨日車窓から、四万十の河原、堤防沿いの道も確認しています。地形も記憶し
てます。真っ暗な駅前通り。車もほとんど通っていません。橋を渡って、川の堤防の
上を歩きます。本当に真っ暗です。夜明けは、6時過ぎです。勿論誰もいません。
時折吹きつける強風に飛ばされそうになりながら、目指すのは竹島大師堂。

 歩き続けて、一時間ほど。プロパンガスの会社のところから、右の河原の森の小道。
地図では、この細い道を抜けると大師堂のはず。いささか不安に思いながら、
懐中電灯一つで、闇のトンネルです。



 ありました。小さな大師堂。靴がありませんから、今日のお泊りはどなたもなさそう。
そうそう、ここが竹島大師堂。早速、家から準備していた封筒をお供えします。
それは、高野山の参与会から送られてきている、高野山各見学場所での無料
入場券。私の署名捺印がありますので、通し打ちのお遍路さんで、このまま高野
山まで行かれる方へのお接待。実は、私の納め札も同封。そこには、メールアド
レスも。いつか、誰か連絡いただけたらうれしいなあと思います。

 もう一つ、今回の最大の目的。それは、マイミクさんの詩織さんにお会いすること。
でも早朝のお仕事ですし、無理なら前にお聞きしていたコンビニ横の青い屋根の
作業所にでもおいておこうと、お土産持参です。時間は、6時。もうお仕事かなあと、
メールで「今大師堂です」と打ち、出発。ほんの数十メートル歩いたところで、堤防の
上から、女性の呼び声。まだ暗くてはっきり見えないのですが、確かに詩織さん。
手を振って階段を岸辺に下りてこられます。

薄暮の四万十、海苔船

 感動の出会いです。だれもいない四万十の海苔船の船着きで、初めてお会い
するのに、なぜか何年も離れていた旧友との再会のような思いです。わざわざ
朝ごはんの準備中に旦那さんが許してくれたと、「お味噌汁だけ用意して、駆け
つけました。」って。

 昨日、37番岩本寺の門前の和菓子屋さんで、大師の七不思議「桜貝」のお干
菓子を準備しました。今も興津の浜で見かける桜貝にまつわる話で「この地に庵を
結んだ大師が、桜の時期なのに桜が散ってしまったことを嘆いて歌を詠むと、磯に
散らばった貝殻がたちまち桜の花へと姿を変えて大師の心を慰めた」という伝説。

 「せめて、そこまでご一緒に。」と、少しだけ岸辺を歩き、階段を上がって大橋の
そばまで。あそこが、家ですって。そう詩織さんは、この四万十川のたもとで、30年
も川の青のりを採っておられる漁師さん。遠く離れた大阪で、偶然にも知り合った
マイミクさん。「これもご縁です。」とおっしゃるその満面の笑顔に、毎日竹島大師堂を
お世話くださってる、そのご縁。お大師さんが会わせてくださった。「歩き続けていた
ら、戻ってきます。そのときに、またお会いしましょう。」「再会の時まで、この四万十で
待っています。」と約束しました。いつの日か、また春の桜の花が咲くころに、戻って
きたいなあ。ほんの10分間の出会いです。

 そろそろ夜明け。どんより薄明かりの四万十大橋。強風で吹き飛ばされそうになり
ながら、菅笠をおさえながら、渡ります。「今、人と別れてきたんです。」(伊豆の踊子)
あのシーンを思い出しながら、ぶつぶつつぶやきながら、足元をみて渡りました。

 強風に、ときおりパラパラ雨粒が混じります。中村から13km。ひたすら市野瀬を
目指します。まだポンチョはいりません。さすがに、だれも歩いていません。大文字
からあのトンネル。1.6kmもあります。20分。でも、今日はちょっぴりうれしい。風も
雨も防げます。

   トンネルの中間地点。

 なんとか、市野瀬の水車小屋。雨がだいぶ降ってきました。山羊さんにエサをあげ
てる親子。反対側のトイレ、休憩所。でかいリュックの遍路さん。薄暗い中で文庫本を
読んでる。「晴耕雨読だ。今日は、ここにいるよ。」だって。職業へんろさん?!
しばらく歓談して、そろそろ足摺岬行きのバスが来そう。8:40発。

 バスが来ました。乗客は、私入れて3人。妙に動作の大きいおじさん遍路。もう一人
は、おたっきーみたいな小さいリュックの青年。途中、地元の人が乗ったり下りたり。

 10時過ぎに到着。雨は少ないのですが、本当に強風です。38番金剛福寺にお参り
です。こんな嵐ですが、さすが観光地です。お参りの方々が多いです。あのおじさん
遍路さん。あと先で、本堂・大師堂とお参りし、納経。これから大岐まで歩くんだって。
風が強いし東の遍路道、海岸まで降りたりするので、できるだけ車道をと、ひと声かけ
ました。

  

 11時過ぎの中村・宿毛行きのバスが出ます。乗客は、私とあの青年。お寺で見かけ
なかったので、「どこに行ってたの?」と聞きますと、「ふと足摺岬が見たくて、高知から
来ました。」「あの神社は、なにか有名なんですか?」「いや、あれは四国88カ所の
有名な札所のお寺だよ。」

 ぼつぼつと、会話をしました。「いつか、おへんろもいきたいけど、まだその気になり
ません。」「お金もいるし、時間も。大学生か、定年退職しないと無理ですよね。」「そう
だね、数日ずつ分けて回るのもいいよ。」またいつか、お大師さんが呼んでくれるさ。
そのとき、呼ばれる声を聞ける人になってほしいなあって、思いました。

 

 彼が、爆睡し始め、わたしもうとうと。2時間足らずで、中村です。私の勝手な計画では、
このままバスで宿毛の手前「寺山口」まで行って、39番延光寺を打って、電車で中村に
戻る予定。なんのなんの、足摺から土佐清水あたりでは、すでに横殴りの雨、暴風雨。
海は真っ白な高波です。・・・計画変更!中村で下車。宿に戻って、お昼寝!決定!

 宿で、夕食と明日の朝食をお願いして、部屋に戻って、お風呂とお昼寝。こんな時は、
じっとして嵐の過ぎるのを待ちます。でも、おかげで明日は30数キロ歩くことに。

 

 夕方遅しと食事を。メニューに四万十の青のりの天ぷらがあります。さっそく注文。
今朝の詩織さんとの出会いが、遠い昔のように思い出され、ちょっぴりさみしい夕食でした。
明日は、今日バスに乗った市野瀬まで、同じ時間のバスで出て、そこから念願の
真念庵から真念遍路道を歩いて、JR平田に出て、39番延光寺、宿毛の宿まで36km。
早寝ですね。


3月19日(火) 三日目

 朝は、いつものように5時前には目覚めました。今日は、8:20中村駅発、足摺岬行きの
バスに乗ります。昨日歩いた市野瀬まで。そこから、歩き出します。

 バスには、すでにお遍路さんがお二人。大きな声で会話されてる。千葉のおばさんと
埼玉のおじさん。どうやら、とても話好きのおじさん。70歳。「家でごろごろしてたら、そん
なに暇なら四国に遍路にでも行ってきなさいと、追い出されたんじゃ。今日で20日。遍路
を続けると、立派になるかと思ったが、なんにも変らなんのう。」とのたまう。

 おばさんへんろが、じょうずに受け答え。その方は、3巡目だそうで、歩けるところは歩き
たいとか。今日も、足摺から平田に出て、せめて駅から39番延光寺往復は歩きたいとおっ
しゃってました。いつの間にやら、会話に参加させられて、くったくないご質問にタジタジ
答えてました。20分で、市野瀬に到着。さて、歩き始めです。

 バス停の反対側に、登りの遍路道しるべ。すぐに山に入っていきます。真念庵までは、
すこしありました。昨日の嵐の後、ちぎれた枝や葉っぱ。人気のない山道。やがて、粗末な
庵、真念庵です。先人の思いを味わい、しばし合掌。下り口の階段に、いっぱい椿の花が
散っています。これも嵐のせいですね。折口信夫の歌に、山道で踏みしだかれた椿の花を
見て、自分より先に歩いて行った誰かを思うという歌があります。今回は、だれも花を踏ん
でいませんね。私が、最初の人です。後の方が、そんな思いでいてくれたらいいなあ、なんて
思いながら。

   
 

 車道に出て、いよいよ三原村を目指します。約10km。上長谷というところから、
右に曲がって、真念遍路道。今回の目標の一つです。今朝のおじさんへんろさんは、
どなたに聞いたのか、真念遍路道はきつい山道だから行かないほうがいいよって。
さて、どんな道でしょう。暖かくて、すぐに汗ばんできました。腕をめくっていますと、
赤く焼けてきます。もうすっかり春(初夏)ですよ。

  

 8:40からのんびり春を謳歌しながら歩きます。上長谷の分かれ道につきました。いよいよ
山道かと思いきや、ずっと舗装された農道です。実は、地蔵峠まで舗装道。でも、一台も
車に会いません。なんと、それどころか、私、市野瀬から延光寺まで、どなたにも会いませ
んでした。こんな日もあるんですね。わずか数回、村の方とご挨拶しただけの一日です。

  

 峠までの登りは、暑い春の日差しの中、とぼとぼ。下りは、細い山道です。このギャップ。
崖が半分崩れていて、トラロープを渡してくださってますが、ずるっと踏み外したら、谷に落ち
そうな箇所がいくつか。昨日の風で、竹や枯れた杉が道を塞ぎ、あのおじさんへんろの言う
とおり、気を付けないと大変だ。

 上長谷から、12km。中筋川まで降りてきて、ここからは、今度は新しい道路のけたの
下をとぼとぼ。家もなく、村もなく、ましてや自動販売機もない。誰もいなくて、ただただ
高架道路を走る車の音。JR平田の駅前まで、7km。とぼとぼ。

 バスで、おじさんへんろさんに、「遍路に出ても、自分が変わるのは難しいですよね。
でも、一人でいて一杯いろいろ考えるのがいいんではないですか。」なんて、えらそうに
言った自分を、悔いました。考えたって変わらない。でも感じることができる自分でありたい。
あぜ道に、タンポポ。土筆。そして可憐な紫の野草。

 一つの根っこに2本の紫の花。「ふたりしずか」という山草は、白い花だけど、私の中では、
この花であってほしい。路傍にひっそり咲く「ふたりしずか」。いつもそばに寄り添ってくれて
いる人。そんなのがいいなあ。ずっと下を向いて、歩いていました。

   図鑑で見たら、なんとかスミレですかね。

 フタリシズカという花は、4,5月ごろ、ひっそりと山蔭に咲く。白い花穂が二本、寄り添う
ように咲きます。万葉集にこんな歌があります。
 フタリシズカの花咲く山城への道を、男たちは馬に乗って行くのに、 自分の夫は、馬が
ないので歩いて通っている。そんな夫の様子を見ていると辛くてならない。「私の母の形
見の鏡ととんぼの羽のように薄い高価な布を持っていき、馬を買ってください。」と妻は訴
えます。その妻の歌に、夫はこう答えます。
 馬を買っても、妻よおまえは歩いていくだろう たとえ石を踏んでもかまわない。わたしは、
お前と二人でともに歩いていこうと思う。

 へろへろになりながら、やっとのことでJR平田の駅前。自動販売機。冷えたポカリ。ふと
川の向こうを見ると、病院です。窓から入院患者さんが見えます。こちらを見ている方もい
るかもしれない。病棟にむかって、深く合掌・礼拝。一日も早いご回復を。

 まだまだ、ここから先があります。予定なら、昨日延光寺を打てていれば、平田から電車で
宿毛に出て、宿でゆっくりするつもりだったんです。そんなにうまくいきませんよね。
 びゅんびゅん車通り。道の隅をてくてく。お寺への遍路道まできました。ここから村の中を
通って、お寺へ。やっと39番延光寺。あの鼻筋の通った赤い亀さん。目洗い地蔵さん。奥の
ベンチでしばし休憩。ぱらぱらとお参りですね。

 

 時計は、ちょうど4時前。バスが「寺山口」15:56。電車は、17:26平田駅。宿毛まで7km。
どうする?!どうするったって、あるくしかないでしょう。今日歩いておけば、明日の松尾峠
越えが、短くなるさ。ガンバです。でも、私の限界を超えてますよ。

 ゆっくり、とぼとぼ。56号線の歩道をひたすら宿毛駅に向かって、歩きます。もう夕方ですよ。
足の裏が、熱くなってきて、もう止まったら歩けそうにない。ふらふら歩いていました。
急に後ろから、クラクション。プップー!!

 

 思わず振り向くと、なんと真後ろに軽4のトラック。おじさんが、黙って窓を開けて、伊予かん
ジュースをお接待。エッーと思う矢先に走り去り。思わず合掌。有難味が、身に沁みます。
なんとか6時前に宿に到着。

 明日の天気は、またしても雨マーク。昼から降ってくるらしい。できるだけ早く出たいけど、
6時過ぎないと明るくならないしなあ。すぐ山道ですから、6時出発と決めて、寝ます。
今日は、疲れました。


3月20日(水)四日目

 宿毛の宿は、初めてのホテルアバン宿毛。選んだ理由は、遍路道に近いこと。
料金が安いこと。コンビニが近いこと。お部屋も、ベッドも大きい。\3.700。これ
だけでも安いと思っていたら、フロントで今度から直接連絡ください。割引料金に
なりますって。エッ?もっと安くなるんですか?!申し訳けないです。

 天気予報では、また明日雨模様。お昼頃から降ってきそう。早く出たいけど、
すぐに山道に入るし、暗いと不安なので、夜明けを待って、6:00出発にします。
どんより曇り空。昨日に比べたら、いささか肌寒い。

 歩き始めて、少し行ったらもう上り坂。宿毛の貝塚跡を過ぎると山道に入ります。
ウグイスがさえずり、山桜がときおりの風に、まるでシャワーのように降り注ぐ。
足元には、春の草花が咲き、これぞ「春(花)へんろ」の真髄です。ゆっくり、
じっくり歩きたい。

  

 山道を抜けては、小さな集落を過ぎて、やがて松尾峠の入り口にきました。
よく整備されてますよね。ハイキングコースでもあります。今日も、まだどなたとも、
お会いしていません。なんとか、峠の大師堂まで到着。麓から300mほど上がって
きました。今回一番きつかったですね。(実は、後であった方に、次の宇和島への
山とどっちがきついですかって尋ねられたのですが、毎回その時が一番きついよ
うな気がして、「今日は、ここですね。」なんて答えをしました。)実は、向こうの方
が、きついですね。

  

 松尾峠は、一種独特の感慨があります。遠く徳島甲浦。そして、ここ松尾は、
土佐の関所です。へんろもまた、土佐への出入りは厳しかった時代があります。
ですから、今日この松尾峠を越えて、伊予の国に入ったことは、なにか大きな仕
事をしたような気になります。

  

 峠の大師堂で、しばし休憩していましたら、逆打ちのおへんろさん。ご挨拶しまし
たら、「おお、その靴は今話題のやつですね?!」と。その方、マギーのへんろ靴。
「今回、試しなんです。でも快適ですよ。」「注文しても、やたら時間がかかるんだ
よね。」「一歩一歩堂のネット販売で、在庫を持っておられるから、二日でした。」
「すぐに、帰ったら注文するよ。」いやあ、お仲間です。こんな会話ができるなんて
ね。その方も、区切りで数回巡っておられるようです。

  ミズノ フリーウォーク OD

 話をしていたら、パラパラと降り出した。この雨は、予報ではしばらく降り続けます。
できるだけジャンパーで進み、ポンチョは後にしようと思います。峠でお別れして、
私は一本松に向かいます。やがて、雨が本降りになってきました。まあ、風がない
だけいいですね。

 でも、難点は雨の日には、道端で休憩することができません。屋根のあるところを
探し、歩き続けることになります。弱足さんのわたしには、辛いです。峠の山道から
麓の町にきました。しばらく行くと、松尾大師のお堂と横にへんろ小屋。

 黄色い合羽のおへんろさんが、休んでおられます。わたしも仲間に。ちょうどお
出かけのところ。今日は、観自在寺から、先に進めるだけ進んでおきたいから、が
んばりますって。雨ですから、どうかご無理なさらないでと。お若いかたなどは、どう
しても先に先にと思いますよね。そのうち、早い方が自慢になったり、武勇伝になっ
たり。口では、人それぞれでいいんでは、と言いますが、なかなかそう思えない自分
もいます。まだ、負けてこそ譲ってこそとは、思い難い未熟者です。

 その方に、この先が地図では2通りの道がありますが、どちらに行かれますかって
聞かれました。本来の遍路道より国道56号線は2kmほど近いです。(でも何もない。)
雨と気持ちですねって。実は、私もう少しで体力的にもくじけそうで、近道をねらってい
たんです。(実は、それが失敗でした。)

 しばらく、へんろ小屋で休憩。クリームパン。宿で入れてきた魔法瓶の熱いコーヒー。
春の雨ですよ!静かな朝の、雨。いいですよ!

  

 休憩が長すぎです?!そろそろ出発しましょう。実は、今日は観自在寺で打ち止め
て、宇和島までバスで行くだけ。そのバスも1時間に一本はあるんです。のんびり行け
ばいいのです。そろそろ昨日の疲れがひびいてきて、両肩が腫れてきて、リュックがき
つい。靴はいいのですが、左の足の親指の筋が痛い。やれやれ、弱足さんがやってきた!!

 一本松の駐在所。真すぐ行くのが、シール通りの遍路道。左に折れて、でかい国道の
歩道を行けば、近道愛南平城方面。・・・左。(あの黄色い合羽の方に追いつくかな?)

 誰も歩いていない。地元の人だっていない。ただただたくさんの車が行きかうバイパス
国道。こんなのも、またいいか。雨の中を、もの好きなへんろが一人、国道の歩道を歩い
てる。以前車で回っているときに、車道と遍路道が離れていることがよくあって、どなたも
おへんろさんを見ないとさみしくて、お接待用のジュースやお菓子を持ったままだったのを
思い出して、何台かの車では、「あっ、お遍路さんだ。」と思ってくれたら、それもいいか、
なんて自分を慰めながら、とぼとぼ、ただただアスファルトの歩道を歩き続けます。

 先にも書きましたが、近道なんですが、何しろでかい国道で、歩道も3mくらいの幅員
ですが、家もなく、休める場所もありません。ずっと歩き続けます。5km。なんとか、途中
に使われなくなった旧道のトンネルがあって、そこに入って休みました。やっぱり、人生
の近道なんて、あるわけないですよね。

 

 愛南町城辺にきました。町の中を通って40番観自在寺に向かいます。橋を渡らずに、
河原沿いに、地図にない遍路道。ちょっと前を行く3人のおへんろさん。雨のへんろさん
は、リュックカバーがいろんな色で、これも愉快ですね。蛍光色が、よく映える。

 

 先のお遍路さんが、渡った橋に来ましたら、なんとまっすぐ観自在寺の山門です。そう
です。いくつかのお寺で、歩いてお参りしますと、遍路道からがお寺の正面に向えるん
です。それが、歩きの醍醐味でもありますよね。門が見えたときのうれしさが、いいんです。

 

 数段の階段を上り、お寺に。ちょっと小止みの雨が、この時また一段と激しく降ります。
やっとの思いで本堂。タイミングですよね、ちょうどたくさんのお参りの方々が本堂入り
口で込み合っています。雨ですと、みんな軒下に集まります。また、ここはご朱印を本
堂の中でいただきますから、余計に込み合います。ぬれたポンチョや菅笠を置く場所も
ない。ごそごそ、うろうろ。

 濡れたリュックを本堂脇に置いていて、お坊さんに叱られました。向こうにベンチがある
から、移動してくれと。それなら、張り紙か矢印でもしておいてくれればいいし、混んでいて
向こうに行けなかったのだから、しばらく辛抱してくれればいいのに。不快な思いをさせら
れてしまった。そのとき、ちょっとムッとした自分を感じました。

 でも、後でどんなに後悔したことか。どんなに自分を責めたことか。やっぱりダメです。
みんな自分中心ですね。叱られたことより、どうして荷物を置くときに、もっと周りをよく
見て、もっと思いをめぐらして行動しなかったのだろう。やはり、体力も落ちていて、気力も
充実していなくて、荷物を置きたいから、そこに置いたのでしょう。そして、お寺の方にも
不愉快な思いをさせてしまった。「最近のへんろは、実に横暴だ。どこにでも荷物を置いて、
我が物顔で、やりたい放題。歩きへんろが、一番偉いとでも思っているのか。よし、一言
物申しておこう。やい、へんろ。ここはお寺であって、お参りの人たちの場所だ。へんろ
だけのものではない。邪魔にならないところで、静かにひそかに居れ。」そこまででなくても、
やはりどんなかたにも不愉快な思いをさせたのは、罪です。自分の存在が、どなたにも
心の動揺の原因やきっかけになってはいけません。だめですね。

  (うまれで くるたて こんどは こたに わりゃの ごとばかりで
   くるしまなあよに うまれてくる)  『永訣の朝』 宮沢賢治

 40番観自在寺の大師堂。お砂踏みになっていて、周りをぐるっと回れます。正面には、
独鈷、三鈷、五鈷があります。念珠をこすってご利益を受けます。私は、この大師堂の回
りの壁に、お大師さんのお姿が描かれているのが好きです。左横が、幼少年期の真魚さん、
後ろが修業大師。右の横の壁には、悟りを開かれたお大師様。『般若心経秘鍵』の「文殊
の利剣は諸戯を絶つ」とあります「利剣」をもっておられる像なんです。これまた、念珠で
そっとなでなで。満足。

  

 時間は、まだ2時にもなっていません。さて、バスを待って、一路宇和島へ。今回はここ
まで。これにて打ち止め。2:11「札所前」から「宇和島駅前」まで、約1時間半。のんびり
車窓見物としゃれ込んで、宿に。今夜は、高級な駅のホテルクレセント。だって、明日は、
朝いちばんの特急で松山。そこからバスで大阪です。今夜は、宇和島の「牛鬼弁当」。
家のお土産は、なんと最高級じゃこ天一枚200円ほどのをゲット。

   

 今日は、いっぱい反省した一日でした。そっと、寝ようと思っています。

 夕方に、携帯電話が鳴りました。見ますと、なんと仙台の師と慕う隆蓮坊さまから。実は、
明日21日急に大阪に出てこられると。21日は、正御影供。昼に伊丹について、その足で
高野山。22日は、神戸で御用があるらしい。23日夕方に、仙台に帰られるようです。なんか、
夢のようです。このお四国で、四万十の詩織さんに出会い、今度は、仙台の師僧、尼さんです。
私が仏教を独学で勉強始めたときに、それもネットでお知り合いになり、いろいろご指導い
ただいてきたお若い阿闍梨さま。6年ほどまえに、出張でいった仙台で初めて出会い、また
あの東日本大震災以来、被災者のご支援をなさっておられる、あの方に再会できるかもし
れない。とりあえず、家に帰ってからお返事しようと思います。
(残念ながら、時間が会わずに、出会えませんでした。今度、仙台に行きたいと思います。)


3月21日(木)五日目

 朝、6時36分発特急(あんぱんまん号)で、松山に出ます。最初は空いていたのですが、
この時間帯です。地元の方の通学・出勤時間ですよね。みるみる満席になって、松山に
着くころにが、デッキも通路もラッシュです。

 

 8:03松山着。8:20発大阪行きの高速バス。到着は、13:55予定。途中吉野川PAと
淡路島の室津PA。神戸三宮駅、大阪湊町なんば、大阪駅行です。いい天気。

 窓からは、春の日差しと松山城、石鎚山、西条、丸亀、川之江から徳島道。吉野川、
美馬、脇町、土成、板野。いろんな札所を探しながら、一路大阪です。

  徳島 吉野川の別格箸蔵寺のロープウェイ

 イヤフォンからは、いきものがかりの「あるいていこう」。宇和島の駅のパン屋さんで購入
したサンドウィッチがおいしいこと。
もう明石大橋が、見えてきました。すでに気持ちは、次の日程・行程です。


仏教の勉強室