不動明王2「(C)2004 RayLand」

たくさんの明王がいますが、最も重要な尊格は、不動明王ですよね。
「不動明王」、「無動尊」などと呼ばれます。

日本では、観音菩薩と地蔵尊、そしてお不動さんが、庶民の信仰の三大中心尊です。

本来は、ヒンドゥー教のシヴァ神とも言われますが、日本の不動尊は、独自に発展して
いったようです。

●仏教経典より

 盛唐の菩提流志(ぼだいるし)が訳した『不空羂索神変真言経』第九巻
 釈迦を中心にした観音菩薩の曼荼羅の北側の尊格の一つ

 『不空羂神變眞言經』 菩提流志
        大頂金剛菩薩。左手執三股金剛杵。右手揚掌。
        半加趺坐。北面從西第一。不動使者。
        左手執羂索。右手持劍。半加趺坐。

    「北面の西より第一は、不動使者なり。左手は羂索を執り、右手は剣を持し、
     半跏趺坐す。」

http://www.l.u-tokyo.ac.jp/~sat/


どうやら、これが不動明王の初出のようです。
意味からすると、「大頂金剛菩薩」に使える従者ですね。

ところが、『大日経』になると、変化していきます。

  「真言主(大日如来)の下、湟哩底(ぬりち)の方に依って、不動使者あり。
   慧刀(えとう)と羂索(けんじゃく)を持し、頂髪、左肩に垂る。一目にして
   諦観(たいかん)し、威怒身(いぬしん)にして猛炎あり。安住して盤石
  (ばんじゃく)にあり。面門に水波の相あり。充満せる童子の形なり。」

大日如来の使者として、相が規定されていきますが、童子の姿なんです。
 奈良国立博物館 『胎蔵図像』

ところが、その後、教化しにくい衆生を救うために忿怒の姿をした尊格、つまり
明王の役割が必要になるわけです。

元来の「使者」よりも「忿怒王」の特色が、顕著になってきます。
大日如来の教令輪身(きょうりょうりんじん)、つまり大日如来そのものが、
恐ろしい忿怒の姿に仮になって、衆生の前に現れたと解釈されるようになります。

●いま、不動尊の十九観は固定化しているようです。
  空海 『含(口篇)十九種相観想略頌文』
  安然 『不動明王立印儀軌修行次第胎蔵行法』
  淳祐 『要尊道場観』
  静然 『行林抄』
 などで、中世以降はほとんどがこれに従って表現されてきたようです。   

(1)大日如来の化身であること 教令輪身(教化しにくい衆生を教化するために外見上恐ろしい姿に)
(2)真言中にア・ロ・カン・マンの4字があること 最も実際には普通に使われている不動明王の真言ナウマクサマンダ・バザラダン・センダマカロシャダ・ソハタヤ・ウンタラタ・カンマンには最後に「カン」「マン」が出て来ていますが、アとロは出て来ておらず「ア」は不動明王の本体の大日如来の種子、「ロ」は真言中の「ロシャダ」の頭のロのことでは、などと幾つかの解釈が出ているようです。
(3)常に火生三昧に住していること 不空『底哩三昧耶不動尊聖者念誦秘密法』巻上
「不動は、また自身に遍く火炎光を出す。すなわち、これ本尊みずから火生三昧に住すなり。」不動自体が火を生じ、迷いの障りを焼く智恵の炎になって、三昧(瞑想の境地)に住する。
(4)童子の姿を顕わし、その身容が卑しく肥満であること 初期のインドでの理想の姿は、童子で肥満。
(5)頭頂に七沙髻があること 頭の髪の毛の上に、七つのもとどりをつけます。七は、悟りに到達するための七つの方法である七覚支(しちかくし)を示しています。
(6)左に一弁髪を垂らすこと 辮髪とは、髪を一筋に編んで垂らす中国の髪型です。左は、慈悲の象徴。
(7)額に水波のようなしわがあること しかめ面で、額にしわ。起源的には、インドの奴隷制度の苦しみを表現したもの。日本では、六道世界に輪廻する衆生を哀れんでいるとか。
(8)左の目を閉じ右の目を開くこと 初期の尊像は普通ですが、『大日経』の「一目諦観」。左目は閉じるか細くしている。低劣な教えである左道(さどう)に陥るのを防ぐため。
(9)下の歯で右上の唇を噛み左下の唇の外へ出すこと 上下の歯と唇を咬み違えるポーズ。われわれに害をなす魔性のものを恐れさせるためとか。
(10)口を硬く閉じること 必ずしも経典にはないが、言うことを聞かないものを教化するには、口を閉じて威嚇の姿を表す姿。無駄な空論を排して真の瞑想体験を勧めるとも。
(11)右手に剣をとること 貪(むさぼり)と瞋(いかり)と痴(おろかさ)の三毒の煩悩を滅ぼす刀剣は、智恵の利剣(するどい剣)とも。
(12)左手に羂索を持つこと 利剣とセット。鳥や獣を捕獲する一種の投げ縄。水天や不空羂索観音の持物でもある。目に見える悪しきものや見えない煩悩を縛りあげるもの。
(13)行者の残食を食べること 図像でないが、行者の食べ残したものをすべて食べつくしてくれる。これは、われわれのなかなか捨て去れない根本的な迷いをかわりに滅してくれる。
(14)大磐石の上に安座すること 立像以外は、ほとんどが岩座かレンガ状の瑟々座(しつしつざ)に坐しています。イメージは須弥山(しゅみせん)です。「諸々の障りを鎮め、悟りを求める心(菩提心)を動かさないこと」
(15)色が醜く青黒であること 日本では、必ずしもそうではない。赤不動・青不動・黄不動。青面金剛ですね。インドでは忿怒の神々は、たいてい青黒のようです。「調伏相」。
(16)奮迅して憤怒であること 奮迅とは、「猛々(たけだけ)しい」こと。力です。観音像の慈悲と対比的。
(17)光背に迦楼羅炎があること 背後に生じる炎。まるで迦楼羅(金翅鳥こんじちょう、火の鳥)が羽を広げたよう。インドの神ビシュヌの乗り物で、煩悩の蛇たちを食い尽くす。
(18)倶力迦羅竜が剣にまとわりついていること 初期の像では、抜き身の剣でしたが、やがてその剣に竜王がしっかり巻きつくようになった。
(19)2童子が侍していること この2童子は矜羯羅(コンカラ)童子・制咤迦(セイタカ)童子といいます。
この他36童子・48使者を従えている者もあります

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