もとは古代インドの異教の神々が、護法神として仏教に取り込まれ、特に密教系で修行の場に魔性が侵入するのを防ぎます。ほとんどが仏画で描かれ、西大寺、東寺のものが知られています。
『金剛頂瑜伽護摩儀軌』
@ 地 天 地 地上の諸神及び樹下野沙の諸神の主
大地を神格化したもので、釈迦が悟りをひらいたときにこの神が
地中から出現して、釈迦が悟りをひらいたことを証明したといわ
れています。像形は一定しませんが、花を盛った器を手にしたも
のなどがあります。
下方地天眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM dri Ti vyai svA hA] はっきりした神格としての像表記が
「南莫三漫多沒?南畢哩 體 微曳 娑? 賀」 ない。
おん びりち びえい そわか
A 水 天 西 諸の川流江河大海の諸神龍衆の主
もとは天空の神、あるいは月の神として登場し、天上の法則を司り
全知の神として重要視されました。ヒンズー教に入って庶民の間で
信仰されるようになると、水神として信仰を集めるようになりまし
た。五龍冠という冠をいただいて右手に剣、左手に羂索をもって海
中に座ります。東京にある水天宮はこの神を祀り、信仰を集めてい
ます。
西方水天。住於水中乘龜淺緑色。
右手執刀。左手持龍索。頭冠上有五龍。 亀に乗る。五龍の冠。浅緑色。
四天女持妙華。眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM va ru Na ya svA hA]
「南莫三漫多沒?南縛?拏野 娑? 訶」
おん ばろだや そわか
B 火 天 南東 諸の火神及び諸の持明神仙衆の主
火を神格化したものです。全身を火炎につつまれ、痩せて髭をぼう
ぼうに伸ばした四臂の老人で、四本の手のうち左手一本は施無畏印
に組み、もう一本は念珠を持ちます。右手の一本は仙杖をもち、も
う一本は水瓶を持ちます。青牛、または青羊に乗ります。
東南方火天。乘青羊赤肉色。遍身火焔。
右二手。一持青竹。一持軍持。左二手。一揚掌。 青い羊に乗る。火焔に包まれてる。
一持念珠。有二天女持天花。左右置苦行仙。
垂左脚蹉右足。眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM a gna ye svA hA]
「南莫三漫多沒? 南阿哦那 曳娑? 訶」
おん あぎゃなえい そわか
C 風 天 西北 諸の風神無形流行神の主
風を神格化したもので、子孫繁栄、福徳、長命を授ける神として古
くから信仰されていました。右手に風幡という幡をもち、左手を腰
に当てた老人の姿に作られ、「くじか」という鹿に似た動物に乗っ
ています。体色は赤で冠をかぶり、甲冑を身につけています。
西北方風天。雲中乘?著甲冑。左手托?。
右手執獨股頭創。創上有緋幡。 くじか(鹿)に乗る。赤。
二天女侍之并藥叉衆。眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM va ya ve svA hA]
「南莫三漫多沒?南?耶吠 微先 娑? 訶」
おん ばやべい そわか
D伊舎那天 東北 諸の魔衆の主
風力を神格化したもので、のちに大自在天、すなわちシヴァ神の化
身といわれ、シヴァ神と同一視されるようになり、大自在天によく
似た姿をしています。忿怒相で三眼をもち、牙を上に突き出してい
る。右手に三叉戟、左手に杯をもち牛に乗ります。
東北方伊舍那天。舊云摩醯首羅天。
亦云大自在天。乘黄豐牛。左手持劫波坏盛血。 黄色の牛に乗る。浅青肉色。
右手持三戟創。淺青肉色。三目忿怒二牙上出。 三眼。髑髏を持つ。二月の冠。
髑髏爲瓔珞。頭冠中有二仰月。二天女持花。
眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM i Za na ya svA hA]
「南莫三漫多沒? 南伊舍那耶 娑? 訶」
おん いしゃなや そわか
E 帝釈天 東 蘇迷廬等の一切諸山所攝の天鬼の主。
インド神話では雷雨の神として梵天とともに最高の神格。
十二天の筆頭
サンスクリット語でインドラといい、仏法の守護神として、梵天と
同じように釈迦の成道の際に力を貸した話や、成道後の教化を助け
たことなどが説かれています。音楽神乾闥婆の娘をめぐって阿修羅
と戦い、これに打ち勝って阿修羅を仏教に帰依させたのは有名な話
です。独尊としての信仰よりはむしろ、梵天と一対、もしくは梵天
・四天王と1組に表されて、仏法の場を守護することを目的に造像
されました。
甲冑を身につけ、金剛杵、香炉などをもつ二臂像が主流ですが、密
教に取り込まれてからは、一面三目二臂像が主流で金剛杵を常に持
ち、白象に乗って半跏踏み下げとするものが主流になります。
東方帝釋。乘白象住五色雲中。身作金色。
右手持三股當心。左手托左?。左脚垂下。 白い象に乗る。金色。青い蓮華に。
三天女各手持蓮華。盤盛青蓮華。
或以盤盛雜華等。眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM i ndra ya svA hA ]
「南莫三漫多沒? 南印捺? 娑? 訶」
おん いんだらあ そわか
F 焔摩天 諸の五道冥官太山府君司命疫病諸の餓鬼等の主
インド神話では最初に死んだ人間として冥土の王になった。
閻魔天は、中国において道教の冥界思想とも融合して閻魔大王とな
りました。その結果、日本には閻魔天・閻魔大王の両様がもたら
されることになりました。閻魔天は平安時代に密教の流入とともに
その像の形が知られるようになり、十二天のひとりとして受容され
るほか、単独の信仰として延命・除災・除病などのご利益があると
されます。
また閻魔大王は鎌倉時代以降、浄土教の隆盛とともに、冥界の十王
のひとりとして、十王信仰の浸透とともに受容されるようになりま
した。 閻魔は地蔵菩薩と深い関わりを持っています。地蔵菩薩は
地獄で閻魔の裁きを受ける人を、地獄と現世との堺に立って助けて
くれるのです。死後、地獄に墜ちるか天国に行けるかは、地蔵と閻
魔の話し合いにかかっています。
菩薩形で一方の手に半月形の上に人頭を付けた人頭幢を持ち、他方
の手の掌を仰ぐかもしくは腰に当てて、水牛の上で一方の足を踏み
下げて座っています。
南方焔魔天。
乘水牛右手執人頭幢左手仰掌。有二天女侍。二鬼使者持刀持戟。 水牛に乗る。赤黒色。
赤黒色垂右脚。眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM yaM ma ya svA hA]
「南莫三漫多沒?南焔摩耶娑?訶」
おん えんまや そわか
G 梵 天 諸の色界静慮一切諸天の主
この天の原名はブラフマンといい、インド思想の宇宙の原理を神格
化したもの。サンスクリット語でブラフマンといい、帝釈天ととも
に天部の最高神。ヒンズー教では宇宙創造の最高神とされていまし
たが、仏教に取り込まれて守護神になりました。悟りを開いた釈迦
を、人々に説法するように促したのが梵天です。
密教に取り込まれる以前の一面二臂の立像の伝統を伝えるものと、
密教化されて四面四臂で趺坐するものの2様に大別できます。前者
は奈良時代までさかのぼり、代表作には東大寺法華堂像などがあり
ます。後者は、鵞鳥の背に趺坐することが規定されています。
帝釈天と一対で表される場合が多く、一般に、如来や菩薩に随侍す
る三尊像の1つとして作られました。また、密教に取り込まれてか
らは、十二天のなかに再編されました。
上方梵天眞言曰
中心置四臂不動尊。青肉色。 四臂の不動尊の姿。青肉色。
二手各別作金剛拳。頭指小指各曲如鉤形。 炎に包まれている。
安口兩角想如牙。右手持刀令竪。左手持索。
半跏右押左坐盤石上。威焔光明遍身如火
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM vra hma ne svA hA]
「南莫三漫多沒?南沒?? 敢心反 摩 寧 娑? 訶」
おん もらかん まねい そわか
H毘沙門天(多聞天) 北 諸の薬叉呑食鬼神の主
ヒンドゥー教の財宝の神。我が国では七福神に数えられる。
北方を護る。北方の他、同時に他の三方も護るとされており、四天
王の中でも中心的な地位を占めています。ヴァイシュラヴァナとい
い、毘沙門天と訳されます。多聞天が単独でまつられる場合の呼
び名が、毘沙門天です。諸々の夜叉を率いて、仏教の教えを多く聞
いて精通しており、仏教を守護します。日本では、毘沙門天として
単独でも信仰され、また七福神の一人としても信仰を集めています。
右手を高く上げて宝塔を持ち、左手は金剛棒を持ち、口を閉じて、
遠方を見つめ、邪鬼を踏みつけています。
北方毘沙門天。坐二鬼上身著甲冑。
左手掌捧塔。右手執寶棒。身金色。二天女持寶華等。 二鬼を踏んでいる。金色。
眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM vai Zra va Na ya svA hA]
「南莫三漫多沒?南吠室? ?拏野娑? 訶」
おん ぺいしら まんだや そわか
I 羅刹天 諸の羅刹食血鬼衆の主
神通力をもって人をひきつけ、それを食う悪鬼でしたが、仏教に取り
込まれてから守護神となり、十二天の一人に数えられます。
画像に表されることが多く、甲冑をつけて刀をもち白獅子に乗ります。
西南方羅刹主天。乘白師子身著甲冑。
右手持刀令竪。左手大指押中小二指赤肉白。 白い獅子に乗る。赤肉色。
二天女侍左右。二羅刹鬼持三股戟。眞言曰
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM drI tyai svA hA]
「南莫三漫多沒?南乃哩 底曳 娑? 訶」
おん ちりちえい そわか
J 日 天 諸の星衆七曜諸執遊空一切光明の主
創造力を神格化した抽象的な神でしたが、のちにインドの太陽神で
あるスーリヤと同一視され、信仰を集めました。これが仏教に取り
入れられて日天とり、仏教では観音菩薩の化身とされ、太陽はこの
神の宮殿であるともいわれます。右手に蓮華をもち、その上に三本
足の烏がとまる日輪を描きます。また、曼荼羅中では五頭の赤馬の
車に乗り、両手とも蓮華をもった天人形に描かれます。
おん あにちや そわか
K 月 天 諸の住空二十八宿十二宮神一切宿衆の主
月を神格化したもので、勢至菩薩の化身といわれている。月輪、
または半月杖という杖の先に半月のついたものを持ち、鵞鳥の上
に乗っています。
おん せんだらや そわか
☆七曜眞言曰 「星曼荼羅」(北斗七星)など参照。
[na maH sa ma nta vu ddhA nAM ke Zva ri ya pra pa ta jyo ti ra ma ya svA hA]
「南莫三漫多沒? 南?? 醯 濕? 哩耶鉢? 跛?而渝 底 羅摩耶娑? 訶」
☆二十八宿眞言曰 二十八宿三十六禽。
「南莫三曼多沒?南 諾乞灑 怛?涅 那?曳娑?訶」 上記十天の周りにいて、天を助ける。
(如是從東方至此歸命並同) 陰陽道などでは、重視される。
於八方中。加兩位。與上下天對。曜東宿西。
『曜東宿西』という記述に注目。
七曜は東に、二十八宿は西にいる。
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