敬愛法(愛染明王)

   おん まからぎゃ ばさろ しゅにしゃ ばさら さとば じゃく うん ばん こく 
   
       (真言の意味:オーム・大愛染 金剛 最勝尊よ、金剛薩たよ、弱吽鑁斛。)


 愛染明王の場合

 密教の五種法、息災・増益・敬愛・調伏・鉤召のうち「敬愛法」(きょうあいほう)
 がもっとも広範におこなわれたようです。

 敬愛法には、「出世間法」と「世間法」の二法あります。
 平安貴族や皇族の中には、出世のために相手を殺すような呪術として利用したものも
 あるようです。しかし、一般的には「夫婦の不和の修復や、かなわぬ恋愛の成就、衆人
 からの敬愛の獲得などを願って修されたようです。

●敬愛法の修法壇

  西向きで秋に配して行われる。
  「此の時、百草花開き、万木菓を結ぶ。諸仏愛念を増し、諸天覆護を加ふる。」
       (覚禅鈔 「愛染上」)

●なぜ愛染明王?

『金剛頂瑜伽金剛薩た五祕密修行念誦儀軌』
                   
      由誦此眞言故。令定中見金剛薩た。
      了了分明。即誦四字明曰
          「惹吽鑁斛

『大樂金剛薩た修行成就儀軌』
       敬愛法先於自身前觀阿字門。
       成淨月輪。於月輪中觀斛字。成金剛愛菩薩。
       身珠砂色身放紅光。二手持箭。
       分明觀已則誦四字明。結印引入自身。四字明曰
           「弱吽鑁斛

『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』 愛染王品第五
復説愛染王 一字心明曰
          「吽多枳吽惹」入聲


   五秘密菩薩
       先想月輪然觀形色。次説五祕密。金剛薩た。坐白蓮臺。
       端嚴而處。形貌如前所成身法當住大印金剛箭。
       赤色居於前而持弓矢。金剛喜悦。白色在右。
       袍三昧耶體。金剛愛。諸事並青。
       處後持摩竭幢。金剛欲自在。色黄居左。
                                                五秘密菩薩曼荼羅
               西


まん

 鎖

 歌
    
 金剛華

 愛金剛

 金剛燈

 索

 触金剛
 金剛
 薩た

 慢金剛

 鈴

 金剛焼香 

 欲金剛

 金剛塗香

 嬉

 鉤

 舞





  

  


       

 金剛界曼荼羅 理趣会




              東

「衆生の断ち難い欲触愛慢は、全てこの真実菩提の相である金剛薩たと同体である」といわれ、
きわめて甚深秘密の教理的内容を示すので、この名前が付けられました。

像容は、五尊の菩薩からなっており、中央金剛薩たで五仏宝冠に右手五鈷杵、左手五鈷鈴をとり、
他の四尊はそれに寄り添うように配置されます。

右前方の欲金剛は弓を射、
その後ろの触金剛は金剛薩たを抱き、
左前方の慢金剛は二手金剛拳をなし、
その後ろの愛金剛は摩羯魚幢をとります。

五秘密法は敬愛法として、また諸法悉地成就の法として修法されましたが。
金剛界曼陀羅の理趣会、理趣経十八会曼陀羅でも主要な位置を占めています。



その「愛染曼荼羅」が、「敬愛法」の主本尊として祈祷の中心になります。


●修法の方法

  愛染明王は、六本の手(六臂ろっぴ)を持っています。左右第一手には金剛薩たを象徴とする五鈷杵・五鈷鈴を、
  左右第二手には金剛愛菩薩を象徴する弓と矢をとり、右第三手には未敷蓮華、
  左第三手は何ももたず金剛拳(握っている)をしています。
      ※仏様の手を数えるときは本来は本ではなく臂(ひ)といいます。
  そこで、その手に「所求」の物、すなわち女性が施主の場合は相手の男性の名前や「雄」の字、
  男性が施主の場合は、相手の女性の名前や「雌」の字を書いた札を握らせます。



  また、現存の愛染明王画や像の中には、男や女の頭を持ったものもあります。


  そのほか、護摩壇や三昧耶形の「箭(や)」や壇供(赤い団子)などを準備します。
  
  護摩壇は、八葉蓮華の形に作り、縁に八本の箭(や)を左右に四本ずつ。これは、愛染明王は
  第二手に弓と箭(や)を持っていますから、「敬愛成就」の呪具として必須です。

  ある寺院に残っている資料では、おしどりの羽に、一枚は「夫の名」と「愛染明王の真言」、もう
  一枚には「妻の名」と「真言」を書いて、二枚重ねて木に挿して本尊の前に立てたそうです。

  これは、千手観音の「千手敬愛法」と同じ小野流といわれる秘事だったそうです。
  『千手千眼合薬経』にあるそうです。

  次に、米粉を赤く染めて作った団子を加持します。「至極の大事」とされました。

  「此団丸供変成鴛鴦尾。入従本尊御口。
   至心蓮華台、成無量蓮華箭雲海。
   従一々毛穴流出供養 虚空界諸仏菩薩。
   便還来射払男女憎悪隔別厭離。
   男女一体和合互令起無二敬愛之心」

  なお、結願作法が終わったら、使ったおしどりの羽を紙に巻いて、糊で封じ「ボロン」(種字)
  を書いて首にかける。小野流では、一字金輪の種字「ボロン」を書いた。

 ●また「如法愛染法」は、おしどりの羽より、「箭」を重視したもののようです。
  覚禅鈔 「如法愛染」では、「花箭」という壇具(銅や桜の木で赤く塗り、根元を黒のものなど)

  「第一の赤い箭で心臓を、第二の黒い箭で秘部、第三・四の白い箭で両乳を、第五の緑の箭
  で額を射よ。必ず成就する。」 (瑜伽要略念誦法)

  興味深いのは、大悲の愛染を司り、愛染王の本身である金剛愛菩薩が持つ弓箭で五所を射る
  ところです。五本の矢の色が、金剛界五仏の色や愛染曼荼羅の仏の色と共通していることです。

 ●修験道の祈祷法「千手愛法」もまた、同じです。
  「修験深秘行法符咒集」
   「柳の東へ指たる枝を切て人形を二作て、男女の姓名を書く。和合して念珠の糸にて三所
   結て、散供五穀を添て道の辻に埋て、朝日に七日、順に心経四十巻可読也。妙見・一字
   金輪ボロン・愛染王可加持也。硯の水は落合の河水を可用也。」

 ●他にも、立川流などがあるが、性愛信仰の色が濃いものであるようです。
  「瑜祇経」第二品に「馬陰蔵の三摩池」という部分があり、染愛王と愛染王の和合という考えから
  「両頭愛染」などは、そういう考えから創りだされたのかもしれません。

 ●「田夫愛染法」というのもあります。蛇形の愛染明王で、弁財天と習合したと考えられています。

「五指量(ごしりょう)の愛染王」
  「瑜祇経」の愛染王の印に、「五股(鈷)の印」があります。
  東寺に伝えられた最極の秘印だったそうです。
   ここでは、梵字が書けませんので、音だけです。 短の「ウン」、重の「ウン」 

  比叡山でも、愛染王の五股印と明(みょう)があります。
   @「吽(ウン)」・・・右手指を上にして、両手を組む
   A「多(タ)」・・・両中指をまっすぐに立てて合わせる
   B「枳(キ)」・・・両人差し指を鉤(かぎ)のようにする。
   C「吽(ウン)」・・・Bから両親指と小指を立てる。
   D「弱(シャ)」・・・さらに両人差し指を開きます。
                 (両薬指を手のひらの中にいれる。これが最極秘密の口伝)

ここから、「五指量」(二寸五分)の愛染王が白檀の木で作られ、お守りとして帯などの中に
納められたようです。


☆私の解釈に間違いがあっては、いけないのですが

   『大樂金剛薩た修行成就儀軌』の最後の部分に

      敬愛法先於自身前觀字門。
      成淨月輪。於月輪中觀字。成金剛愛菩薩。
      身珠砂色身放紅光。二手持箭。
      分明觀已則誦四字明。結印引入自身。四字明曰
          弱吽鑁斛

      諦觀己身如金剛愛染菩薩
      威儀色相無有差別。即觀彼人在前一肘間。身下有字。
      成蓮華。自見自身。從蓮華孔入彼人身。
      遍其形體支分。猶如披衣。上下諦觀其形無二。
      即誦眞言曰
           ・・・・
      彼名念誦諦觀相續不絶滿二七遍。
      然後見之。所出語言皆是彼人無二無別。

      結跏端坐入定。想前有一字。晃耀光明。
      便變爲月輪。輪中有一字。成訖便爲金剛鉤菩薩。
      二手持鉤。便從口入中。便成菩薩。
      即從心中出一字。流入如鬘直至所愛樂人心中。成鉤。
      如金剛女。想頭如一股杵左手曲成鉤。
      二身無二想

  そこで「阿字観」の境地をみました。
  金剛薩たは、大日如来です。阿弥陀如来です。また、金剛愛菩薩です。

  

  月輪(がちりん)や、月輪の中の「阿(あ)」字、「吽(うん)」字がポイントです。
  愛染明王は、火炎の日輪に座しその上に二つの月輪がある明王画があります。

  「阿」字観想法も勉強しないとだめですね。
  これほどに、情熱的な「敬愛法」なのに、金剛薩たは、その至福の瞑想を
  「諦観」と表現し、『諦觀己身如金剛愛染菩薩と記されています。

  あの忿怒の形相は、一説では「赤子が母の胎内で、羊水に浮かぶ姿」と聞きます。
  髪の毛が逆立っているのも、水中の様子。そんな風にとると、誠に愛着が湧いてきます。


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