「阿」字観     


「阿字観(あじかん)」 〔「月輪観(がちりんかん)」〕とは真言密教の瞑想法の一つであり、
瞑想により「世界と自分はひとつである」ことを実感することです。

「阿」という梵字は、梵語の第一字母として、万物の不生不滅の原理の意味だとされます。

禅宗では座禅といって、壁に向うなどして静かに瞑想しますが、真言宗では絵(阿字と月)を本尊として
軸装にしたものの前で行います。

それは静かな場所を選んで、先ず、姿勢を正し、呼吸を整えて意識を集中させ
“阿字あるいは月輪の模様”を心に留めます。

この状態からこれらを徐々に大きくしていくのです。
先ずは、自分の住む町の大きさにしてみましょう。
これが出来たら次には県ほどの大きさに、そして日本の国土、
地球ぐらいまで大きくして、さらに、無限に広がる宇宙の空間にまで大きくしていきます。

このような過程の中で、自己を見つめ、仏を感じるのです。
瞑想により「世界と自分はひとつである」ことを実感することです。


阿字観の準備

一、 手を組む。(法界定印) 
    右手を左手の手のひらに乗せて、両手の親指の先を合わせて輪を作る。。

一、 身体をひきしめる。
    @ 上体を伸ばし左、右に体をゆする
    A 動作を小さくし体を静止する
    B 後頭部を天上に突き上げ姿勢を正す
    C 頭、首、肩、腹の順に力を抜く

一、 呼吸のしかた。
    @ 下腹に気を集中させる
    A 腔門の筋肉をしめる 
    B 口を閉じ腹で呼吸をする
    C 静かに下腹まで吸い込む
    D 吐く時は下腹の空気を全部吐く気持ちで静かに長くゆっくりと吐く

一、 目の位置。
    @ 一メートル位前方を半眼でみる(初心者は目を閉じたほうが落着く)

一、 心を調える。
    @息の数をかぞえる(数息観)
     息に心を込める。吸う時は天地を我が腹におさめる気持ち。
     吐く時は己れが天地をと、とけこむ気持ちになる(随息観)


密教の瞑想法(阿字観・月輪観

    
密教修行において、初歩でありどの密教修行においても中軸をなすものです。   
   故に、全ての修行者がマスターしなければならない密教修行の入り口であり
   とても大事な要であるとされます。


   まず、阿字観を実践する前に阿字観の基礎である月輪観を実践しなければならない。

1:阿字観も月輪観も同様に本尊を座った時の目の位置等を考えて本尊を壁とかに掛ける事。

2:香炉に線香を一本立てて三礼(床に両膝・両肘・頭をつけ手のひらを仰向けにして礼拝する、
  これを三度繰り返す。)する。

3:修行者はその本尊から約一歩ほど離れて結跏趺坐にて座る。

4:阿字観が支障無く行われることを祈り合掌し、南無大師遍照金剛と三度唱える。


          
南無大師遍照金剛  南無大師遍照金剛  南無大師遍照金剛

5:合掌しながら五大願を唱える。

       「衆生は無辺なれども誓って度せんことを願う。 衆生無辺誓願度
        福智は無辺なれども誓って集めんことを願う。 福智無辺誓願集
        法門は無辺なれども誓って学ばんことを願う。 法門無辺誓願学
        如来は無辺なれども誓って事えんことを願う。 如来無辺誓願事
        菩薩は無上なれども誓って証せんことを願う。 菩提無上誓願証 」


6:外五鈷(げごこ)の印を結び大日如来の五字の真言を五度唱える。


     
両手を握って、両方の中指・親指・小指をまっすぐ立て、両方の人差し指を屈して、中指の後ろに少し離す。

     
あびら うんけん  あびら うんけん  あびら うんけん あびら うんけん  あびら うんけん

7:
月輪観・阿字観の順番で観法に入る
                           

8:出定(静かに目を開き体には手をふれずに頭からつま先までさするようにする。)


9:回向文を唱える。

    
願以此功徳  がんにしくどく      願わくば此の功徳を以って、
  普及於一切  ふぎゅうおいっさい    普く一切に及ぼし、
  我等與衆生  がとうよしゅじょう    我れ等と衆生と、
  皆共成佛道  かいぐじょうぶつどう
   皆共に仏道を成ぜんことを
 

10: 二番目と同じように三礼して終わる。



月輪観の本尊   

月輪観の実践:

本尊の前に座ったら呼吸は浅くなく、深くなく、何より大切なのは意識して
宇宙に満ちた力を吸い込み体内の汚れを押し出すがごとくにそして息が
苦しくならないよう大事に呼吸する。呼吸が落ちついたらそれを維持しな
がら瞑想に入る。第一の段階は月輪を心に留め置き目を閉じていても見
えるかのごとくになるまで意識を集中する。一段階がうまくいったら第2段
階の広観へ移る。広観は目を閉じても見えるように強く意識を集中させた
月輪を自分の心の中に引き寄せる。さらに精神中に引き寄せた月輪を立
体の白い淡い光を放つ球に変化させこの球をどんどん大きくしてゆくので
す。まず、自分の体の大きさにそして家の大きさ、町の大きさ、国の大きさ、地球の大きさ、最
後に宇宙全体を覆うぐらいの大きさの球になるように月輪を広げていくのです。これが二段階
の広観である。広観を何度も修することによって意識を限界まで広げる事が可能になるのです。
広観に成功したならば次に第三段階の斂観を行う。斂観とは広観を行い極限まで拡大した
月輪を少しの間維持する。月輪を安定した状態で維持させることができたら次にこの月輪を
徐々に小さくして最初の大きさに戻していくのです。広観と斂観によって阿字観の基礎、
月輪観が終了する。
  


阿字観の本尊


阿字観の実践:

月輪観により自分と仏との一体感を感じる事が出来て来たので次は一歩
進んで御仏の御心を感じる。すなわち我と仏と宇宙の本質である、つまり
我即法界(果てることのない世界と自分とがひとつのものであると実感で
きたときそこに三昧の境地と仏の慈悲の心を感じとることができ初めて即
身成仏の境地にいたることができるのです。その境地に至ったとき本尊の
満月輪の中の蓮華座の上の阿字をみつめ、心のなかに観想するうちに阿
字はだんだん大日如来の姿となっていき阿字が大日如来そのものと変わ
ってくるのです。そのように観じられるようになることが阿字観の目的です。また、阿字を心の内
に観じた後、この阿字を他の仏の梵字に変化させていき梵字を通じておのおのの仏を観想する
ことができるようになるのです。


阿字観の修行によって最初にもっとも顕著に現れるのが意志の力によって虚空に阿字や月輪
を形成する精神の集中力と強力な想像力です。 瞑想法の修行の成果として頭脳が覚醒する
為、様々な一種超能力ともいえる鋭敏な感覚も養われたでしょう。それは不思議なことではなく
もともと人間が持っている能力の一部なのです。人は仏にも匹敵するぐらいの能力を秘めてい
るのに、ほとんどの人が気づかずに一生を終わっているのです。もったいないことです。人体は
無意識の内に防衛本能が働き持っている能力のほんの少ししか使えないように封印されてい
るのです。その封印を解き放つ秘技の教えも密教のひとつなのです。


仏教の勉強室
しばらく、じっくりと眺めてください。