チベット密教史
             『密教学概論』H25 高野山大学 奥山直司先生の講義ノートから

 581-649  ソンツェンガンボ王の時代
   チベット初の統一国家 ネパールから王妃 ティソン     トゥルナン寺
              唐から王妃    文成公主  641 ラモチェ寺

 8世紀後半チデツクツェン王の時代
   『金光明経』の将来・・初期チベット仏教に大きな影響
    除災・護国・正法治国の思想――呪術的な機能=護国思想

   仏教の国教化、僧侶の養成=僧院(サムイェー寺)
     しかし、チベット土着の神々との抗争  ツェン・ニェン(天空にいる神々)
                        サダタ・シダク(土地に住む神々)
                        ルー(竜)  (水の中にいる神々)

 インドのナーランダー寺院の僧シャーンタラクシタを招へいしたが、十善をはじめとする顕教
  の法を説いた。  → ボン教の反対で、退散

 北インドからパドマサンバヴァを呼ぶ。密教の大家として、彼の呪力を利用した。
 密教が、土着の信仰(ボン教)と結合し、下層階級に信仰され、ニンマ派を形成する。

 779年 サムエ寺の建設 興仏誓約の石碑、「試みの六人」(貴族の息子たち、初の僧団)
   下層階級の密教の呪術やボン教に対抗して、貴族仏教を擁護し、中央集権的な政治体制
   の確立を目指した。

   仏教が盛んになっていく。経典がサンスクリット(梵語)から、チベット語に翻訳され、自分
   たちの言葉で、仏教を学ぶ。

   しかし、息災法・増益法は貴族的封建体制維持に利用したが、降伏法・呪詛法は制限され、当
   時インドで興隆した無上瑜伽タントラ等は、制限・禁止された。

 792-794年 カマラシーラ(インドの僧)と摩訶衍が対論し、カマラシーラが勝って、インド仏教
 が主流になる。

 次のチデソンツェン王の時代
   経論目録「デンカルマ」が編纂。「大日経」等の密教経典、ダラニなど。

 815年 チツクデツェン王(レパチェン)の時代
   唐との争いがおこり、その後ニャン氏とタンカ氏が政治介入し、独裁体制になっていく。
 841年 レパチェンが暗殺され、ランダルマ王になり、仏教教団への支援を全面停止。
   (ランダルマの破仏)・・・しかし、下層階級の間では、脈々と呪術的な密教は生きていた。
   前伝期は、ここまで。

 9-10世紀前半には、中央チベットでは仏教がすたれたが、東北チベットや高地の西チベットでは、
   仏教が生き残っていた。10世紀終わりには、10人の若者が東北チベットで「戒」を受けてくる。

 西チベットのガリ三国の王イシェーウー王が、24人の若者をインドに派遣して、瑜伽タントラの根
 本経典『金剛頂経』や、『秘密集会タントラ』を学ばせようとした。
 しかし、2人しか帰ってこなかった。その中の一人が、リンチェンサンポである。

 10世紀後半 リンチェンサンポは、大翻訳官であり、多くの寺院や仏塔を建てた。

 1042年、インドからの僧アティーシャを招へい

 後伝期のチベット仏教は、現世利益を求める民衆との結合と、インド仏教の趨勢である
 「無上瑜伽タントラ」を中心に、チベットの氏族集団の支援を受けて、教団の基礎を確立していった。

 11世紀、宗派が形成され、アティーシャの法統をうけて、カーダン派、マルパのカーギュ派、
 ドゥスンケンパのカルマ派、1073年サキャ寺を建てたサキャ派。シィチェ派など。

 いずれも初期には密教を基本的な立場にしていたが、密教・顕教・戒律の融合連携に苦悩し、
 やがて顕教化・戒律化していく。

 13世紀、モンゴルがチベット全土に支配権を及ぼし、クン氏出身のサキャ・パンディタ(サパン)、
 甥のサパンによって、教団全盛期を迎える。

 14世紀初頭、学匠プトンがあらわれ、「プトンの仏教史」やチベット大蔵経を編する。

 14世紀中葉、モンゴルが衰退し、中国明朝とともにカーギュ派が、勢力圏を拡大した。
 その後、ツォンカパのゲルック派が栄えた。一方、サキャ派系のカルマ派が対立し抗争をひろげる。

 17世紀前半、ゲルック派が政教両権を手中に納める。
 ゲルック派の大化身ラマ=ダライ・ラマ五世法王・・観音菩薩の化身→ポタラ宮

 その後、300年間「ダライラマ政権」が続く。5世から14世(現在)

 中国(清)の皇帝は、チベット仏教の信者であり、北京紫禁城の中には、チベット仏教の仏堂が多くあった。

 1911年、辛亥革命で、清朝が滅び、1949年には中国の内戦で、中華人民共和国ができた。
 1959年チベットで反乱がおこり、チベット亡命政府(ダライラマ14世)はインドに亡命
 1965年、中国西蔵(チベット)自治区として、社会主義的改革が進んでいる。


   『密教の歴史』松長有慶 サーラ叢書
   『密教』   松長有慶 岩波新書