香と仏教


香<こう>

 「香」は仏教とも深い縁があります。仏壇はもとより、各種仏教儀式には 欠かせませんね。
香の風習が生まれた原因は、インドの地が酷熱の地帯であったことによるといわれます。
注意を怠るとたちまち腐敗や臭気が強くなります。そこで香に対する関心が高まり、人を招く
ときは部屋の臭気を消したり、自分の体から発する臭気を消すために香を塗ったりしました。

ヨーロッパの香水も同じ発想ですね。日本人は、もともと体臭が薄い民族ですから自然発想
ではなく、宗教や他文化の伝来とともに浸透していったのでしょうか。

 仏教では「焼香(しょうこう)」「塗香(ずこう)」を,仏を供養する方法に取り入れました。
焼香とは、今でもお葬式の風習などに見られる香を焚く方法です。
塗香は,香を手や身に塗って、 体を清めること。また、仏像や修行者の体に塗って、汚れを除き、
邪気を祓(はら)うこと。

香の種類は多く、有名なものとしては、伽羅(きゃら)、沈香(じんこう)、白檀(びゃくだん)、
龍脳香(りゅうのこう)、爵香(じゃこう)、丁子香(ちょじこう)などがあげられる。

 香が日本に伝わったのは天平時代ごろとされています。現在では、香を粉末にして水を混ぜて
作った 「練香(ねりこう)」、さらにはそれを乾燥させた「抹香(まっこう)」を用いるケースが多いですね。

「抹香臭い」「抹香鯨」はここから生まれた語。焼香に用いるのも、この抹香です。
また「線香」は 宋から渡来し、禅宗、浄土宗を通じて一般に広まったもの。

ちなみに、線香一本の燃え尽きる時間は約五十分。これを「いちゅう」といい、坐禅をする時間の
目安などにしているそうです。


香水<こうすい>
 仏教ではこの語を「こうずい」と発音する。

 現在では、もっぱら体臭を除くための化粧品として、西欧から普及したものを指していますが、
香は元来、古代インドで発達したものです。さまざまな香水を水に溶かし、体に塗る塗香が、
この 「香水」、あるいは「香油」のことであったようです。

 仏教の供養として「十種供養」というのがあります。
@華、A、B瓔珞<ようらく>(装身具)、C抹香、D塗香・E 焼香・F幡蓋<ばんがい>(荘厳具)・
G衣服・H伎楽<ぎがく>(音楽)、I合掌

実に四項目が 香にかかわります。

 ちなみに、仏教の儀式で焚く香は、本来は弔問者が持参するのが習わしでした。
それで、 香の代金を相手に渡す習慣が、現在の「香典、香奠(こうでん)」の起源だといわれます。



「焼香」の意味

香気により仏前を清める。
    
法事や葬儀に参列すると、必ず焼香をしなければならない。焼香には、その香気によって
仏前を清めるという意味がある。参列者全員が焼香することにより、儀式が遺族と 僧侶だけのものではなく、
参列者全員が喪に服するということでしょう。

焼香には「抹香」を焚くものと「線香」をあげるものがありますが、葬儀や法事では抹香を焚く場合が多いですね。

宗派によって、焼香の作法は多少異なりますが、基本原則は同じです。

@数珠(じゅず)を両手にかけ、位牌、写真を仰いで合掌、礼拝する。
A左手に数珠を持ち、右手の中指、人さし指、親指で香をつまむ。
B軽く捧げ上げてから、静かに香炉の中に入れる。
C再び数珠を両手に持ち合掌、礼拝。
D遺族に会釈して退く。 焼香は一〜三回行うが、三回には仏、法、僧の三宝(さんぽう)を敬い、
  内にある三毒(むきぼり、怒り、迷い)の心を清めるという意味です。



焼香の起源

釈尊の時代から習慣があったといわれ、焼香は釈尊在世中から続けられた儀式であり、
六波羅蜜(ろくはらみつ)の「精進(しょうじん)」にあたります。

身を清めて仏を供養する必要から、我が国では仏教伝来とともに焼香の習慣が儀式に取り入れられました。

抹香はもともと沈香や梅檀香などをついて粉末にした香で、普通は香木を細かくして用います。
かつては自分で調合した抹香を持参して、仏前で焼香していたといいます。

「抹香臭い」ということばは、抹香の臭いが衣服にしみついたさまをいうもので、坊主臭く、
おもしろみのないことを指すことばですね。

香の起源については、インドでは古来より用いられ、仏教でも修行や荘厳等に上手く利用する形で取り
入れられてきました。精神の集中やリラクゼーション、また最近医学の分野でも、香りの効能が証明されてきました。


【香】こう [仏教語大辞典]より

 かおり。香気に富んだ木片や樹皮から製したもので、インドでは体臭などを消すため、熱地に多い香木から
香料をとり、身に塗ったり衣服や室にたく風習がある。 仏教では仏を供養する方法として、焼香・塗香を十種供養
・五供養力などの中に数え、香華と熟語にし、花とともに仏に供養する代表的なものとする。
原料の香木の種類から栴檀香・沈香[じんこう]・龍脳香・伽羅[きゃら]・安息香、サフランの花を圧してつくる
鬱金香[うつこんこう] などがあり、使用法から塗香に用いる香水・香油・香薬、焼香用の丸香・散香・抹香・線香
などがある。
密教では修法の種類により香を区別し、それぞれ仏教教理にたとえることもある。
また法の功徳を香にたとえ、戒香・聞香・施香などと称し、仏殿を香室・香殿などという。
出家教団では身を飾る塗香は許されず、見習期間の僧(沙弥)の十戒のうちに、
身に香油を塗ることを禁ぜられている。



「浄土真宗青年会」のサイトを参考にさせていただきました。

※浄土真宗本願寺派の香についての用語や荘厳・作法についての詳細は以下のとおりです。
【浄土真宗本願寺派 法式規範】より

◆常香盤[じょうこうばん]
香型[こうがた] を用いて抹香を灰中に蛇行させてなかば埋め、その一端から燃やして、常に香気を立てる
ようにした台付きの香炉。『考信録』に「本堂の常香は昼夜間断[けんだん] なし」とあり、阿弥陀堂では平
常、前卓[まえじょく] に代えて用いる。

◆香炉[こうろ]
 尊前に香を焚くのに用いる器。香を薫[くん] じて供養するのは、インドでは古来行われており、『大経』巻下
には「散華焼香」とある。
 香炉には金香炉[かなごうろ] (金属製)と土香炉[どごうろ] (陶磁器製)の二種類がある。金香炉は焼香の
ときに用い、入子[いれこ] に炭火を埋め込み、沈香・五種香などを薫じる。土香炉は燃香[ねんこう] のときに
用い、抹香または線香を横にして燃やす。平常は、香炉台の上に金香炉を置き、その手前に土香炉を置いて
燃香する。二つの香炉を用いるのは、室町時代の記録にも見える。三本の脚のうち一本を前面に置く。

◆火舎[かしゃ]
香炉の一種。もと真言密教の燃香器で、火舎と華瓶一対の荘厳形式は鎌倉時代に広く行われていた。
古くは炉の上に直接蓋を置いていたが、現用のものは甑[こしき] を重ね上下二重に作られている。三本の脚
のうち一本が前面に出るように置く。他派では火舎香炉ともいう。

◆香盒[こうごう]
香を入れる蓋つきの容器。

◎供香[ぐこう]
 供香は、仏前に燃香[ねんこう]または焼香[しょうこう] することをいう。
 燃香は、勤行[ごんぎょう] の有無にかかわらず、常香盤または土香炉に抹香[まっこう] で供養することをいう。
焼香は、法要や儀式にあたり、仏前などにおいて金香炉に沈香・五種香などを供養することをいう。
 法要の場合は、点火[てんか]・点燭[てんしょく] のあと御本尊前より両脇壇。両余間へ順次に各尊前に燃香
する。内陣や余間などの前卓で焼香をする場合は、あらかじめ金香炉を香炉台よりおろし、土香炉と置きかえて
手前に置く(これを転置という)。金香炉の蓋[ふた] を左側に、香盒[こうごう] を右側に置いて、入子[いれこ]
(金香炉のなかに火を入れる器[うつわ] )を火に入れておく。この場合も土香炉には燃香しておく。

@抹香は線香[せんこう] で代用してもよい。線香は立てずに適当な長さに折り、必ず横にして供える。
A焼香をする場合は金香炉を用いる。ただし外陣では土香炉を用いてもよい。
B燃香が行われている香炉には焼香しない。
C焼香しない場合は、金香炉の蓋をして土香炉と置きかえる。また香盒は撤去する。
◎焼香[しょうこう]
 焼香するときは焼香卓[しょうこうじょく] の手前で立ち止まって一揖[いちゆう] し、卓の前に進んで着座する
(膝付または薄縁[うすべり] がある場合は、その上に着座する)。次に、香盒(香を入れる器)の蓋を右手でと
り、右縁[みぎふち] にかける。香を一回つまんで香炉に入れ、香盒の蓋をして合掌礼拝する。礼拝が終われば、
起立して右足から後退し(膝付または薄縁がある場合は、起立して右足から下りる)、両足を揃えて立ち止まり、
一揖して退く。
 なお脇壇や余間などで香炉の位置が高い場合や、そのほか会館などで高い焼香卓を依用している場合は、
起立したまま焼香する。また、膝付または薄縁がある場合は着座してから合掌礼拝し、ない場合は起立したま
ま合掌礼拝する。

@焼香の準備をするとき、三具足[みつぐそく] または五具足[ごぐそく] などの金香炉の蓋は、あらかじめ香炉の
左側に置き、香盒は香炉の右側に置いておく。また、焼香卓を用いる場合は、香炉の手前に香盒を置き(置け
ない場合は、香炉の右側の適当な場所に置く)、香炉の蓋は用いない。
 いずれの場合も、香炉のなかには炭火を用いる。
A内陣において、脇壇および低い焼香卓などの前で焼香する場合、原則として膝付を用いる。
B中啓を保持しているとき、正座して焼香する場合はひざの前(膝付があるときは膝付の上)に横一文字に置き、
起立したまま焼香する場合はえり元にさす。
C柄香炉を保持しているときは、香炉の部分を前方にして、卓上の右方にたてに置く。卓の上が狭くて置けない
場合は、中啓を半開きにして畳や敷物など上に置き、その上に香炉の部分をのせて置く。

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