救脱菩薩 (ぐだつぼさつ)

 「薬師本願功徳経」の中で、仏弟子「阿難」に閻魔大王の説明や「九難」について解説する
 場面が、あります。それが、「救脱菩薩」です。

 資料もそれを探す手立てもない中で、やっと見つけました。
 奈良の生駒、西大寺の側に「秋篠寺」があります。薬師如来がご本尊で、あの秋篠宮の名の
 もとになった寺です。そこに、「救脱菩薩」がおられます。(残念ながら、4月現在奈良国立博
 物館に出陳中です。)その足で、博物館に行きました。お姿は、帝釈天と瓜二つでした。

 秋篠寺の本堂に、真ん中に薬師如来、日光・月光菩薩、十二神将が六体ずつ。
 左右に帝釈天・梵天、そうしてまた伎芸天と救脱菩薩が並ぶのです。

 『薬師本願功徳経』

  その時、衆生の中に一人の菩薩がおり、名前は救脱(くだつ)という。すぐに座より立って、
  右肩はだぬき、右肘を地に付け、体を曲げて手を合わせ、佛に言いました。

  「大徳、世尊よ。像法の転ずる時、諸々の生きとし生けるものがいて、種々のわずらいに困窮し、
   永い病気を患い、痩せて飲食することができず、 喉と唇が渇きどちらを見ても暗く、死相が現れ、
   父母、親族、友人が泣いて取り囲んだ。

   しかし、彼自身は伏して本来の所におり、閻魔の使いが彼の魂を引いて、閻魔法王の前に至った
   と見る。しかもなお、諸々の生きとし生けるものには倶生神(くしょうじん)がおり、その悪い行い、
   もしくは良い行いに従って、皆つぶさにこれを書き、書いたものをことごとく持って閻魔法王に授与
   する。その時、閻魔法王は充分に検討し、行いを計算して、その悪い行い・良い行いに従って悪い
   場所を断ち切る。 時に病人の親族、友人は彼の為に世尊薬師瑠璃光如来に帰依し、諸々の衆僧
   を招いて、この経を読誦し、七層の燈明を灯し、五色(ごしき)の寿命の延長を祈る幡を掛ける。
   或いは、この場所に彼の魂が帰ることがある。夢の中にあるかのように明らかにして自らの姿を
   見る。 或いは7日、或いは21日、或いは35日、或いは49日を経て、彼の魂の帰る時、夢から
   覚めるかのように皆、自ら善・悪の業の得る所の報いを知り忘れてはいけない。自らの業の報いを
   正しく見ることによって、命を損なわれる災難、諸々の悪業を造らない。故に浄信のある善き男女
   などは、皆まさに薬師瑠璃光如来のお名前を受持し、力のおよぶ所に従って謹み敬い供養をしなさい」

   その時アナンは救脱菩薩に質問をした。
   「善き菩薩よ。どうしてかの世尊薬師瑠璃光如来を謹み敬い供養し、又、命が続く幡、燈明を造る
   べきなのか」

   救脱菩薩が言うに
   「大徳よ。もし病人がおり、病苦を逃れたいと思えば、まさにその人の為に七日七夜、正しい見方・
   正しい考え・正しい言葉・正しい行動・正しい生活・正しい努力・正しい心・正しい心の安定を受持し
   なさい。まさに飲食及び物質で力の整う所に従って(自身で出来る範囲内で)修行僧を供養しなさい。
   昼夜6時にかの世尊薬師瑠璃光如来を礼拝し供養しなさい。このお経を49反読誦し、49の燈明を
   灯し、かの如来の姿の像を7体造り、一つ一つの像の前に各々7燈明を置き、一つ一つの燈明の量は
   大いなる車輪のようにしなさい。あるいは 又、49日間光明を絶やさないようにし、五色の幡を造って、
   長さを49尺にしなさい。まさに色々な衆生を放して49に至らせる。危険や災難を救い、諸々の死者の
   為に所持することを得るべし」

   「また次にアナンよ。もし刹帝利、灌頂王などが災難を起す。衆生の病気の難、他国からの侵入の難、
   自分の存在する世界の反逆の難、時節外の風雨の難、雨が降らない難、時節によらない日食や月食
   の難、宿曜星の怪しげな不吉な難である。かの刹帝利・灌頂王などは、その時一切の生きとし生ける
   ものにおいて、慈悲心を起こし、諸々の束縛を許し、先に説いた供養法によって、かの世尊薬師瑠璃
   光如来を供養し奉りなさい。この善根及び薬師瑠璃光如来の本願の力によるが故に、薬師瑠璃光如
   来の世界は安穏になることを得させる。風雨は時に順じて穀物が実り、一切の生きとし生けるものは
   無病にして喜び、その国の中で粗暴な夜叉などの神が生きとし生けるものを悩ますことはない。一切の
   悪い人相は皆、ひそかに没して 刹帝利・灌頂王などは寿命力・無病は思いのままで皆、増益すること
   を得る。

   アナンよ。もし王・王妃・君主・王子・大臣・次官・中宮・給仕女・役人、諸々の民が病のために苦しめら
   れ、及び、その他の厄難あれば、まさに五色の神聖な幡を造立し、燈明を灯し続け、諸々の生命を放
   ち、いろいろな色の華を散らして多くの名香を焚きなさい。病が癒えることを得、諸々の難から逃れなさい。

  その時アナンは救脱菩薩に問いて言った。
  「よき菩薩よ。どうしてすでに尽きる命を増益すべきなのか」

  救脱菩薩の言うには
  「大徳よ。汝はどうして如来の人間が受ける9つの災難、死がありと説いているのを聞かないのか。
   それ故に続命の幡・燈明を造り、諸々の福徳を修することを勧める。功徳を修することによって、そ
   の寿命が尽きる苦しみを経ない」

  「如来は略して不慮の死に、この9種があるとされる。その他にも又、無量の諸々の道理に外れた事
   があって、つぶさに説く事は難しい」

  「また次に、アナンよ。閻魔王は、世間の名前を記した名簿を管理し、諸々の生きとし生けるものが、
   不孝、五逆、佛・法・僧を破壊し、主君と下臣の法を破り、信じる戒をそした時、閻魔法王は罪の軽い
   重いに従い考え、これを罰する。これゆえ我は今、諸々の生きとし生けるものに勧めて燈明を灯し、
   幡を造り、生き物を放して福を修めることを勧め苦厄を祓い、人々が難に遭わないようにするなり。」


  ●上の功徳経からみて、救脱菩薩は閻魔大王のことに詳しく、また口ぶりから考えても閻魔大王を
   支配しているかのようです。とすると、多目天(毘沙門天)のようでもあり、また四天王を支配する
   帝釈天と同格とも思われます。

   そう考えると、あの秋篠寺の仏像配置を見ると、薬師如来を中心とする曼荼羅を描くように
   日光・月光菩薩、十二神将、その周りを四天として救脱菩薩、梵天、帝釈天、伎芸天が囲む
   のです。(四天王と同じ配置ですね。)


 ※伎芸天(ぎげいてん)
    
    
経典「摩?首羅大自在天王神通化生伎芸天女念誦法」等によって、造顕され経意によれば
     大自在天の髪際から化生せられた天女で、衆生の吉祥と芸能を主宰し諸芸の祈願を納受
     したまうと説かれています。現在では、わが国で唯一の伎芸天像が、秋篠寺にあります。
     頭部が乾漆(天平)、体部寄木(鎌倉)で、極彩色の立像。
    
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日光・月光菩薩 ■十二神将 薬師八大菩薩 薬王・薬上菩薩
帝釈天・梵天   四天王   阿難       ■救脱菩薩