メーテルリンクの『青い鳥』

この話は、とても有名な児童文学ですが、実は大人が読む恐ろしい社会風刺であり、生きる価値観を見直すすごい戯曲なんです。もう100年も前、1911年にノーベル文学賞を受賞しました。

そのあらすじは、皆さんもよくご存じだと思います。チルチルとミチルの兄妹の夢の中での冒険談。魔女のおばあさんに頼まれて、病気の女の子のために、幸せの青い鳥を探しに、いろんな国を旅します。「記憶(想い出)の国」「夜の国」「森の国」「墓の国」「幸福の国」「未来の国」で、ついに青い鳥を生きたままつかまえるのだが、これを運ぶと赤い鳥になっていました。

実は、以前から飼っていた青くもなんともない一羽の鳩。でもふしぎなことに、その鳩をよく見ると旅に出る前よりずっと青くなっています。彼らはずいぶん遠くまで青い鳥を探しに旅をしたのですが、それはごく身近にいたのです。こうしてチルチルとミチルは、幸福とは気がつかないだけでごく身の回りに潜んでいるもの。しかも自分のためだけでなく、他人のために求めるとき、それははかりしれなく大きくなることを知ったのです。

ここで注目したいのは、「幸福(不幸)の国」での「幸せ」とは、こんなものでした。「金持ちの幸福」「ものを所有する幸福」「満足したみえっぱりの幸福」「いつも満腹の幸福」。それらの幸せは、限界がありません。「もっとお金が欲しい。」「もっとたくさんほしい。」「もっと立派になりたい。」「もっと食べたい。」「もっと飲みたい。」そうです。今、満腹なのに、目の前におやつがあったら手を出してしまいます。のどがそんなに渇いてなくても、おいしそうな飲み物があったら、飲んでしまう自分がいます。そんなものが、「本当の幸せ」であるはずがありませんね。

最後に、チルチルとミチルは、「未来の国」に行きます。そこで、小さな天使たちから仲間を紹介されます。「健康の幸福」「きれいな空気の幸福」「両親を愛する幸福」「青空の幸福」「森の幸福」「日のあたる幸福」。このようにして、毎日当たり前だと思っていたことにも幸福があることを知りました。

また、そこへ、輝く衣装をまとった背の高い美しい天使のような人々(「大きなよろこび」)が静かに近づいてきました。「正しいよろこび」「善良のよろこび」「仕事をなしとげたよろこび」「考えるよろこび」「もののわかるよろこび」「きれいなものを見るよろこび」「愛するよろこび」。一番大きく清らかなよろこびは「比べるもののない母の愛のよろこび」。

ベルギー人の作者、メーテルリンクの最も大きな成功作は『青い鳥 (L'Oiseau bleu)』です。作品の主題は「死と生命の意味」だったといいます。人の生き様の真髄をとても象徴的に児童文学の戯曲というかたちで、ト書きと台詞を綴って作品にしました。20世紀初めは、ヨーロッパで大きな戦争がはじまり、やがては世界大戦につながる社会情勢がとても不安な時代。キリスト教の教えというよりも、人間存在の真の意味合いを問う、とても意味深いものだと思います。

 

 ■遍路で学んだことに戻る     次の話 ⇒