スッタニパータ-  第1 蛇の章 3、犀の角


岩波文庫『ブッダのことば』-スッタニパータ-
  中村 元

講談社『ブッダのおしえ~真訳・スッタニパータ
 前田 彰
第1 蛇の章 3、犀の角(16~21頁) 1 蛇の章 ⓷犀の一角の経
一切の生きものに対して暴力を加えることなく、一切の生きもののいずれをも悩ますことなく、また子女を欲するなかれ。況んや朋友をや。犀の角のようにただ独り歩め。
交わりをした者には愛恋が生ずる。愛恋にしたがってこの苦しみが起る。愛恋から患(うれ)いの生ずることを観察して、犀の角のようにただ独り歩め。
子や妻に対する愛著は、あたかも枝の茂った竹が互いに相絡むようなものである。筍が他のものによりつくことのないように、犀の角のようにただ独り歩め。
あたかも林の中で、縛られていない鹿が食物を求めて欲するところに赴くように、智ある人は独立自由をめざして、犀の角のようにただ独り歩め。
同伴者の中におれば、休むにも、立つにも、行くにも、旅するにも、つねにひとに呼びかけられる。ひとの欲しない独立自由をめざして、犀の角のようにただ独り歩め。
四方のどこにでもおもむき、害心あることなく、何でも得たもので満足し、諸々の苦難に堪えて、恐怖することなく、犀の角のようにただ独り歩め。
出家者でありながらなお不備の念をいだいている人々がいる。また家に住まう在家者でも同様である。だから他人の子女に執心すること少く、犀の角のようにただ独り歩め。
葉の落ちたコーヴィラーラ樹のように、在家者のしるしを棄て去って、在家の束縛を断ち切って、勇者はただ独り歩め。

金工がよく仕上げた二つの輝ける黄金の腕輪が一つの腕においては相打つのを見て、犀の角のようにただ独り歩め
このように二人寄っているならば、われに饒舌といさかいとが起るであろう。未来にこの恐れのあることを察して、犀の角のようにただ独り歩め。

実に欲望は色とりどりで甘美であり、心に楽しく、種々のかたちで心を攪乱する。欲望の対象にはこの患(うれ)いのあることを見て、犀の角のようにただ独り歩め。

これはわたくしにとって災害であり、腫物であり、禍であり、病であり、矢であり、恐怖である。諸々の欲望の対象にはこの恐ろしさのあることを見て、犀の角のようにただ独り歩め。

寒さと暑さと飢え歩渇(かつ)えと風と太陽の熱と虻と蛇と、―― これらすべてのものにうち勝って、犀の角のようにただ独り歩め。

集会を楽しむ人には、暫時の解脱に至るべきことわりもない。太陽の末裔(ブッダ)のことばをこころがけて、犀の角のようにただ独り歩め。
義ならざるものを見て邪曲にとらわれている悪い朋友を避けよ。貪りに耽って怠惰な人に、みずから親しむな。犀の角のようにただ独り歩め
博学で真理をわきまえ高邁・明敏な友と交われ。いろいろとためになることがらを知り、疑惑を除き去って、屋の角のようにただ独り歩め
世の中の遊戯や娯楽や快楽に満足を感ずることなく、心ひかれることなく、装飾を離れて、真実を語り、犀の角のようにただ独り歩め
妻子も父母も、財宝も穀物も、親族やそのほかすべての欲望までも、すべて拾てて、犀の角のようにただ独り歩め
「これは執着である。ここには楽しみは少く、快味も少くて、苦しみが多い。これは魚を釣る鉤である」と知って、賢者は、犀のようにただ独り歩め
水の中の魚が網を破るように、また火がすでに焼いたところに戻って来ないように、諸々の(煩悩の)結び目を破り去って、犀の角のようにただ独り歩め
葉の落ちたバーリチャッタ樹のように、在家者の諸々のしるしを除き去って、出家して袈裟の衣をまとい、犀の角のようにただ独り歩め
諸々の味を貪ることなく、欲求することなく、他人を養うことなく、戸ごとに食を乞い、家々に心をつなぐことなく、犀の角のようにただ独り歩め
こころの五つの覆いを断ち切って、すべての随煩悩を除き去り、たよることなく、愛念の過ちを絶ち切って、犀の角のようにただ独り歩め
以前に経験した楽しみと苦しみとを擲ち、また快さと憂いとを擲って、清らかな平静と笑らいとを得て、犀の角のようにただ独り歩め
最高の目的を達成するために努力策励し、こころ怯むことなく、行いに怠ることなく、毅(つよ)い活動をなし、体力と智力とを具え、犀の角のようにただ独り歩め
独座と禅定を捨てることなく、諸々のことがらについて常に理法のとおりに行い、諸々の生存における患いを確かに知って、犀の角のようにただ歩め
愛執の消滅を求めて、怠らず、唖ではなくて、学問あり、こころをとどめ、理法を明らかに知り、自制し、努力して、犀の角のようにただ独り歩め
音声に驚かない獅子のように、網にとらえられない風のように、水に汚されない蓮のように、犀の角のようにただ独り歩め
歯牙強く百獣の王である獅子が他の獣にうち勝ち制圧してふるまうように、辺地の坐臥に親しめ。犀の角のようにただ独り歩め
慈しみと平静とあわれみと解脱と喜びとを時に応じて修し、一切世間に背くことなく、犀の角のようにただ独り歩め
貪欲と嫌悪と迷妄とを捨て、結び目を破り、命を失っても恐れることなく、犀の角のようにただ独り歩め
ひとびとは自分の利益のために交わりを結び、また他人に奉仕する。今日、利益をめざさない友は、得がたい。自分の利益のみを知る人間は、きたならしい。犀の角のようにただ独り歩め