「ヴェーダの『ヤマ』について調べてくる。

〇http://blog.livedoor.jp/kensaku_gokuraku/archives/1402912.html


「リグ・ヴェーダ」によれば、ヴィヴァスヴァット(スーリヤとする説もある)とサラニヤーの間にヤマは生まれたとされ、ヴィヴァスヴァッタの別名を持つ。またヤマの起源はゾロアスター教聖典「アヴェスター」に記される最初の人間であり理想的な王イマにまで遡るとされ、イマの父ヴィヴァフヴァント(ウィーワフント)はインド神話のヴィヴァスヴァットと対応している。

・ヤマは最初の人間であり、最初に死すべき存在として死の道を発見して天に昇り死者の王となった。
ヤマが君臨する死の世界は最高天にあり、そこは祖霊がヤマと共に酒や音楽、歌舞を楽しむ光明に満ちた楽園である。

・後世のヤマが持つ悪人を罰する審判や地獄のイメージはこの頃存在せず、悪人は無の深淵に落ちるという以外は全ての人々が楽園に到達できたといわれ、ヤマは死を見守る優しげな存在であった。



なお、死者がこの楽園に行く方法は、父祖の魂が通った道を辿る、祭祀を実行するというもの以外に、楽園の番犬サーラメーヤに案内されるというものがある。

だが時代が下ると来世観が変容し、天国で受ける幸福は永続するものではなく“再死”があると語られ、死後の応報の観念が強まり“地獄”という概念が誕生した。



※岩波文庫「リグ・ウェーダ」辻直四郎訳
ヤマ(死者の王)の歌(「リグ・ヴェーダ」10・14 岩波文庫p.229-232)より
10・14 の讃歌は、人々がヤマを招来し、死者を無事にその領土に迎え入れる事、そして生ける人々を、長き命を生きんがために、無事に神神の元へ導かんことを願っている。
讃歌で、詩人は聖なることばによってはヤマと、その父ヴィヴァスヴァット(太陽神)、祖霊をともに、敷草の上に勧請し、捧げられたソーマ酒や供物を楽しみ、願いを聞き届けることを希う。荘厳なる祭祀はアグニ(火神)を使者としてヤマに赴く。

そして、死者に対して「行け、行け、太古の道によって、われらの古き祖先が去り行きし所へ。」の言葉を贈る。ヤマとヴァルナ(水神)の両神がこれを迎え、死者が最高天(ヤマの居所)において、祖先と合同し、祭祀・善行の果報と合体し、欠陥を棄てて死者の世界に帰り、光輝に満ちて新たなる身体と合体することを願っている。死者に忍び寄る悪魔は、死者のために祖先が設け、ヤマが昼、水、夜をもって飾れる安息所から追われている。

詩人はヤマに、その使者たる四つ目で斑のある二匹の番犬に死者を託してこれを守り、死者に安寧と無病を与えんことを願い、また、この鼻広く、茶褐色で、人間の間を徘徊して人々の生命を奪うこの二匹の犬が、今日参列する人々に幸多き生命を返し与えんことを希っている。
・そして叙事詩などでヤマは死者の善悪の行為を記録・賞罰する神としての性格が強くなる。


・姿も恐ろしい容貌で王冠と血の様に赤い服を着て水牛に乗り、手に法杖と縄索を持った形態で描かれるようになり、イメージに髑髏を模した飾り・持物が付随するようになる。

・そして鬼卒を使役し人の命を奪う死そのものとみなされる死神のような存在になり、また領土も天上世界から地下世界に移され、地獄で罪人を拷問して無数の責苦にあわせるとされ、「マハーバーラタ」などで正義と司法の神ダルマと同一視されるようになるなど裁きの神としての性格が強くなっていった。

・さらにローカパーラでヤマは南方を守護するとされるが、南は死と密接に関係する為だといわれる。



○両親はともに神(デーヴァ)であるにも関わらず、ヤマにはヤミーという双子の妹がおり、ヤマの死を悲しむヤミーを慰める為に神が昼と夜すなわち「時」を作り出したとされ、時の流れと共にヤミーは悲しみから立ち直ったという。

なおリグ・ヴェーダにはヤマがヤミーの誘惑を退ける話があり、両者とも最初の人間でありながら夫婦ではない。(人間の始祖マヌという存在が別にいる)
「ヤマとヤミーの対話」『リグ・ヴェーダ』(10・10)
一 (ヤミーの言葉)われは友(ヤマ)を友情(友の務め)に返り来たらしめんと願う。〔たとい〕彼は多くの〔空間〕、海を越えて去りたり〔とも〕。指導者は父のため孫を生むべきなり、地上において遠く〔未来を〕おもんばかりて。
二 (ヤマの言葉)なが友はかかる友情を欲せず、血族の女子(妹)が異族のもの(妻)となるがごとき。偉大なるアスラの子ら、勇士たち、天の支持者たちは、広く・くまなく監視す。
三 (ヤミー)これらの不死者(神々)は正にこれを欲す、唯一の応死者(人間の祖先ヤマ)の後裔を。なが意はわれらが意に従うべし。なれは夫として妻の身体に入らんことを。
四 (ヤマ)われらいまだかつて成さざりしこと、いかでか今〔なすべきや〕。〔今まで〕天則(正しいこと)を語りつつ、われら〔今〕虚偽(不正のこと)を蝶々するにいたらん。水の中なるガンダルヴァと水の精女(水精アプサラス)、これわれらが親縁(起源)なり、これわれらが最高の血縁なり。
五 (ヤミー)創造者は、すでに胎内においてわれらを夫婦となせり、刺激者にして・一切の形態をもつ(同時に造る)神トゥヴァシュトリは。何者ものも彼の掟を冒すことなし。われらがこのことにつき地は知る、天もまた。
※刺激者:天界におけるアプサラスの配偶。
(中略)
九 (ヤミー)夜も昼も彼女(ヤミー)は彼にかしずかんと願う。太陽の眼をしばし欺かんと願う。対をなすわれらは、天地と同じ縁に結ばれたり。ヤミーはヤマの同胞にあるまじき行為(相姦)を、ひとりして担わんと願う(責任をとること)。
一○ (ヤマ)実にかかる後の世代も来たるべし、そのとき同胞が同胞にあるまじき行為をなさんところの。牡牛なす者になが腕を手枕とせよ。われよりほかの者を、美しき人よ、夫として求めよ。