明王(みょうおう) 「仏像イラストはすべて(有)レイランドの著作物です。」

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 明王の「明」とは、「真言」(マントラ)を意味しており、すなわち、明王は、真言の力そのものを体現した
仏である。ところで、そもそも明王というのは呪力を持った者たちの王者という意味で、一般に多面多臂
の姿をしているものが多く、みな密教の中で生まれて来た仏たちです。

※仏像には千手観音のように多数の顔と多数の腕を持つものが多いのですが、その特徴を○面○臂と
いう言い方をします。一般の千手観音は27面42臂です。不動の場合基本は1面2臂ですがチベット流
に三面六臂のものもあります。

明王という位の仏様(智慧の光明を根源に持ち、忿怒の形相で分らず屋の人々を説き伏せて導いてくれる仏様です)

明王にも多数あるのですが、五大明王・八大明王・十大明王といった数え方があります。

不動明王(ふどうみょうおう)(大日如来)
大日如来の命を受けて、憤怒の相を表し、悪を談じ、仏心を起こさせる、国家安穏、厄除開運の仏。
 五大明王の主尊。お顔はインドの下層民のファッションとされ、ヘアースタイルや目・牙の様子には
いくつかの異種がある。天衣を腰に巻き、条帛や、裳をつけた姿は大日如来と同じスタイル。
又胸飾り(瓔珞)や腕飾り(臂釧)などの装飾も大日如来と同じ。頭の上には蓮華台を乗せ、衆生を
そこに往生させる。教えを聞き入れようとせず反抗したりするものには、恐ろしい形相でにらみつけ、
その威力で説き伏せるのが明王の役割。剣は浮き世のしがらみや煩悩(貪瞋痴)を断ち切り智慧を
示し、羂索はおぼれる衆生に向かって投げつけ救済するロープで慈悲を表す。

不動明王という仏様は胎蔵界大日如来が変化した姿で、如来の教え(仏道)を妨げる者の命を
奪う役目があり、奴隷三昧を誓願としているために如来に給仕する事から、不動使者とも言われます。
不動明王の眷属として八大童子、三十六童子がいることから、不動明王を巡る関東不動霊場巡りの
札所(朱印を頂けるお寺)の数が三十六で合わせています。

江戸という町が作られた時に風水の力を借りるために、江戸市中に五色不動明王を配置しました。
それぞれ仏敵を降伏させる力を持つ不動明王に、五智如来の威徳を加える為にその目の色を変
えることを思い付きました。
白色は大日如来、
赤色は宝幢如来、
黄色は開敷華王如来、
青色は無量寿如来、
黒色は天鼓雷音如来を表しています。
そしてそれぞれの仏を目白不動、目赤不動、目黄不動、目青不動、目黒不動といい,今でもその
名残として目白、目黒という地名が残りました。その他は麻布,駒込、三ノ輪に現存しています。

真言ノウマク サラバタタ ギャテイビャク サラバ ボッケイ ビャク サラバ タ タラタ センダ 
   マカロシャダ ケン ギャキギャキ サラバ ビキンナン ウン タラタ カンマン
。種子カーン。

降三世明王(ごうざんぜみょうおう)(阿しゅく如来)
降三世明王(トライローキャヴィジャヤ)は三つの世界を降伏するものの意味で、シヴァ神の影響
が強いようです。実際シヴァと同じ第3眼を持ち、三面八臂の姿をしています。
過去、現在、未来において、佛教に敵対する者を降伏させることを意味しています。
この像の特徴は足元に、 大自在天と鳥摩妃を踏みつけている姿をとっていることです。
又、単独での信仰は少なく、五大明王の東方に位置します。
密教ナンバー2の金剛薩唾が、教化し難い人々を威嚇して仏道に導く為、
恐ろしい容貌をとった姿と説明されてます。

降三世明王は金剛薩たが変化した姿で、三世とは三毒、三世界主の意味があります。
もう一方では大日如来が説法をしていた時に、大自在天が立ち上がり『私こそが三世
(過去、現在,未来)の王者である。』と言ったのを聞いていた金剛薩たが憤怒の姿に
変化して、大自在天を降伏させた事から降三世明王といいます。
そのために仏像では大自在天と妻の烏摩妃を踏みつけた姿で表されます。

真言オン・ソンバ・ニソンバ・ウン・バザラ・ウン・パッタ。種子ウーン。


大威徳明王(だいいとくみょうおう)(阿弥陀如来)
大威徳明王(ヤマーンタカ)は名前を意訳して降閻魔尊ともいい、その名の通り閻魔(ヤマ)よりも
強い神という意味です。これは文殊菩薩の眷属とされ、六面六臂六足の姿です。多面多臂の仏像
は多いですが、足まで六本もあるのはこの明王くらいでしょうか。チベットには9面34臂16足という
像もあるそうです。
五大明王中西方に位置し、西方とは阿弥陀如来の位置を示しています。
その容貌は特に異彩で、六面六臂六足で水牛に跨っています。
単独での信仰は多くは見られませんが、怨敵降伏など主に戦いの仏として祭られました。
真言オン・シュチリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ。種子キリーク。

大威徳明王は文殊菩薩が変化した姿で足が六本、手が六本の姿で頭には六面と阿弥陀如来の面
とを有しています。そのために六面尊、六足明王とも言います。
阿弥陀如来の面は阿弥陀如来がこの明王の本体である事を指し六面は前六識(視覚、聴覚、臭覚、
味覚、触覚、霊感)を表し、六手は六波羅蜜業(布施、持戒、忍辱、禅定、精進、般若・智慧とも言う)
を成し遂げた事を表し、六足は人々が迷う六道を清める事を表し、神通力を発揮できる事を表しています。

軍茶利明王(ぐんだりみょうおう)(宝生如来)
軍荼利明王(クンダリ)は成立過程がはっきりしませんが、名前の通りクンダリーニの力を象徴した
ものではないかと思われます。一面八臂です。
五大明王中南方に位置。軍茶利とは梵語「クンダリ」を音写したもので、
言葉の意味は「とぐろをまくもの」となっています。特徴として身体の各部に蛇が巻き付いています。
この明王は主に、目に見えないが我々に悪さをする子悪魔を懲らしめると伝えられています。
又、不治の妙薬の甘露の信仰にも結びつきます。

軍荼利明王は宝生如来が変化した姿でその身体には蛇を瓔珞として身に纏った姿で表されます。
これは煩悩即菩提を意味しています。蛇には元々性的な力があるとされ、蛇を纏ったこの明王にも
同じ力があると信じられ、諸事を弁じる力があり、障害を取り除く力があるとされてきました。

真言オン・アミリテイ・ウン・パッタ。種子ウン。


金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)(不空成就如来) 
金剛夜叉明王(バジュラヤースカ)はこれも起源が不明ですが金剛という名前を冠していることから
比較的新しい仏であることは確かでしょう。
五大明王中北方に位置します。又、主に天台密教ではこの尊格の代わりに
烏枢沙摩明王を祭ることも多く見られます。五大明王中この尊格だけ金剛という冠称を持ってます。
この尊の特徴は特に正面の顔に五眼を持つことです。
この尊格も殆んど単体での信仰されることはありませんでした。

金剛夜叉明王は不空成就如来(御釈迦様)の変化した姿で一切の悪衆生と三世(過去・現在・
未来)の様々な欲望を起こす心をを清め、速やかに取り除く仏様です。

真言オン・バザラ・ヤキシャ・ウン。種子ウーン。


無能勝明王(むのうしょうみょうおう)(薬師如来)
無能勝明王(アパラーシタ)はその名の通り、誰もこの明王に勝つことはできないという、とにかく
強い仏様です。形は三面四臂・一面二臂・三面六臂などがあり、女性神の姿のものと男性神の
姿のものがあります。八大明王の中に登場します。釈迦の忿怒身という説もあるようです。
その為、胎蔵マンダラでは、釈迦院に位置し釈尊のすぐそばに無能勝妃と向かい合っています。
その姿は四面四臂で、展左のポーズをしています。
真言オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ。種子ベイ?


大輪明王(だいりんみょうおう)(弥勒菩薩)
八大明王の一つで、弥勒菩薩の忿怒の姿だと伝えられています。
大輪とは、字のごとく「大きな(法)輪」という意味です。
法輪とは、佛教の真理のシンボルであり、佛教では教えを説くことを「法輪を転じる」
つまり「転法輪」ともいいます。
この尊格は、ほとんど信仰される事はありませんでした。


歩擲明王(ぶちゃくみょうおう)(普賢菩薩)         
八大明王の一つで特徴として傘蓋を左手に持つことです。
普賢菩薩が忿怒の姿に変化したと伝えられてます。
この尊格も、ほとんど信仰される事はありませんでした。
六道に輪廻する有情を救済し、罪人に菩提心を起こさせると言われています。


孔雀明王(くじゃくみょうおう)
孔雀明王(マハーマユリ)は明王グループの中では珍しい女性神で、その名の通り孔雀の神と
考えられますが、インドでは孔雀は蛇の天敵とされており、諸々の毒を取り除く神として崇められ
ていたようです。孔雀の羽を持ち孔雀の上に座す美しき王者です。胎蔵界マンダラでは二臂、
本尊になる時は四臂、この他仁和寺など一部に六臂のものもあります。

孔雀明王は明王の中で唯一優しい菩薩に似た顔(この顔には諸仏一切の力を持っていると
いう悟りの表情をあらわしています)をしているために、仏母大孔雀明王・孔雀王母菩薩とも
言われています。
元々インドでは孔雀は毒蛇を食してくれる守護的存在であるために、一切の諸毒から護って
くれる力があると信じられてきました。
その力を神格化したのが孔雀明王です。
その手に持たれている蓮華は敬愛・倶縁果は気力を増す事から増益・吉祥果は降伏・孔雀尾
は息災を表しています。

真言オン・マユラ・キランデイ・ソワカ。種子バン。


太元帥明王(だいげんすいみょうおう)
数ある明王の中でひときわ威力があり恐ろしいものと伝承されています。
現在はこの尊の信仰はあまり聞きませんが、新しくは日清・日露・第二次大戦のように外敵
との戦いに必ず祈祷の対象とされました。
この尊格が日本に本格的に伝わったのは、空海に遅れること三十四年に入唐した小栗栖の常暁
(空海に密教を学び灌頂を受けた)が、唐の栖霊寺の阿闍梨「文蔡」から大元帥の修法を授け
られました。秘法中の秘法で現在では真言宗の最も盛大な「後七日御修法」が毎年1月8日から
14日まで東寺で行われています。

大元帥明王は『アタバリ(曠野鬼神)』とも言い、その威徳が広大であるために明王の王とも言われます。

烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)
烏枢瑟摩明王(ウッチュシュマ)はどちらかというと民間信仰の中で生きている仏様で、不浄の
ものを除く力があるということから、しばしばトイレにこの明王の名前や姿が描かれています。
本来は火の神で、火の力で汚れたものを浄化するのではないかという指摘もあるようです。
五大明王の中で金剛夜叉明王の代わりに祭られることもあります。
主に目に見える不浄を取り払う尊格として有名で、神社や寺院のトイレなどにこの尊の御札が
貼られているのを見受けられます。別名「不浄潔金剛」と呼ばれることもあり、その為禅寺などでは
特に大事にされてきました。

烏枢沙摩明王は産褥の穢れや枯木の精による障害、毒蛇の害、悪鬼の祟りなどを取り除く
仏様です。金剛夜叉明王が穢れた心を食べ尽くして取り除く仏に対して、烏枢沙摩明王は
穢れた物を食べ尽くして取り除く仏であるために同一視され、天台宗では不動明王・降三世
明王・軍荼利明王・大威徳明王・烏枢沙摩明王をもって五大力明王とし、真言宗(東寺派)では
烏枢沙摩明王の代わりに金剛夜叉明王を奉り五大力明王としました。

真言オン・シュリマリママリ・マリシュシュリ・ソワカ。種子ウーン。

愛染明王(あいぜんみょうおう)       
愛染明王(ラーガラージャ)は弓矢をつがえた愛の仏で、ギリシャ神話のエロス(ローマ神話の
キューピッド)と同じルーツと思われます。幾つかの形があり、歓喜仏になっている場合も多い
ですが、単独の仏像としては一面六臂の場合が多いようです。

愛染明王は愛欲染着が名前の由来ですが、これは人々が持っていく性欲に執着する心を
金剛薩たの浄菩提心の全てであるとする煩悩即菩提を表した姿です。
この仏様の姿は三つの目には三徳・仏部(如来)蓮華部(菩薩)金剛部(明王)の仏の威徳の
全てをこの身体の中に有している事を表しています。頭に被っている獅子冠・忿怒眼は仏敵を
降伏させる事を表し、頂上にある五鈷は衆生の五智を成就させる事を表し、天帯(頭に巻いた
帯)は何も聞かずに如来自身の持つ清らかな欲望の心を知る事が出来るほどの帝王である証
である事を表し、持物(その手に持っている物)の五鈷鈴と五鈷杵は息災・弓矢は敬愛・腰に
当てた手は右手に持つ蓮華の菩提心で根本無明を降伏させる事を表し、台座にしている赤蓮
華は敬愛を表し、その蓮華を支えている宝瓶は増益の徳があることを表しています。この仏様
はとてもご利益がある代わりに、とても恐ろしい仏様で、仏像を専門に彫っている仏師の人達
の間では『愛染明王を彫ったら命を取られる。』と言われるほどです。

真言オン・マカラギャ・バゾロ・ウシュニシャ・バザラ・サトバ・ジャクウン・バンコク。種子ウーン。

仏教の勉強室
明王
■不動明王  ■隆三世明王  ■軍荼利明王  ■大威徳明王  
■金剛夜叉明王 
(以上、五大明王) 
■無能勝明王 ■大輪明王 ■歩擲明王 ■孔雀明王 
■太元帥明王  
■烏枢沙摩明王 愛染明王